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[イワクニ 地域と米軍基地] 日米地位協定とは/岩国との関わりは

 日米地位協定。在日米軍の駐留に関し、さまざまな日米間の法的な関係を取り決めた協定だ。米軍が絡む事件事故が起きるたび、不平等さが指摘されてきた一方、1960年の発効から一字一句変わっていない。岩国基地(岩国市)は、3月末の空母艦載機の移転完了で極東最大級の航空基地になった。地元自治体や住民はこれからも、この協定を通じて基地と向き合う。地位協定の課題をまとめた。(久保田剛、明知隼二)

■軍駐留の取り決め

 日米安全保障条約に基づき、「米国が日本に軍隊を置くための取り決め」が日米地位協定だ。1960年の安保条約の改定に合わせて発効された。28条で構成。米軍に対する施設の提供や、軍人や軍属、その家族の地位、権利など幅広い規定を盛り込んでいる。

 その内容は「特権的」と指摘されている。米側は、日本の法令や規制から除外されるケースがあり、日本がコントロールしにくい実態があるからだ。  例えば、米軍関係者が公務中に起こした犯罪の裁判権は米軍が持っている。住民税など一定の課税が免除されているほか、米軍が日本の港湾や飛行場などを無料で使うこともできる。

■日本に不利な内容

 日米地位協定の前身は52年に日米両政府が取り交わした日米行政協定だ。同年、旧安保条約と同時に発効した。終戦後の日本はそれまで米国の占領下にあった。米軍は日本にあった基地をそのまま利用することを望み、行政協定には、日本側に不利な内容が多く含まれていた。その内容や解釈の多くが地位協定に引き継がれたとされる。

 地位協定により、米軍の犯罪者を日本側が起訴できなかったり、米軍機の墜落事故の現場検証を拒否されたりするケースが繰り返されてきた。

■一度も改定されず

 基地を抱える自治体や住民は日米地位協定の見直しを求めてきたが、両政府は発効以来、一度も改定していない。両政府の代表が出席する日米合同委員会での合意という形での運用改善や、補足協定の締結にとどまっている。

 「日本防衛のため、ある程度の米軍優遇は仕方ない」との意見がある。一方、米国がドイツ、イタリアと結んでいる協定より、日米地位協定の方が不利だと指摘する専門家も多い。

 外務省は「米国が、極東の平和と安全の寄与に向け円滑に活動できるようにする」ことが地位協定の狙いと説明し、米国と他国が結んでいる協定に比べて不利との認識はない、としている。

課題 起訴まで身柄引き渡さず

 軍人や軍属が公務中に事件事故を起こした場合、米側が優先的な裁判権を持つ。軍属については、米側が刑事裁判を求めない場合に日本側で裁判できるよう、地位協定の運用が見直された。

 公務外の場合は日本側に裁判権がある。それでも容疑者が基地に駆け込んで米軍がその身柄を拘束してしまうと、日本側が起訴するまでは基本的に身柄を引き渡してもらえない。

 1995年9月に沖縄県で起きた米兵による女児暴行事件では、米軍は基地内で3人を拘束し県警への引き渡しを拒否。地位協定見直しの声が高まった。同年10月、殺人や女性暴行といった凶悪犯罪などに関し、米側が起訴前の身柄引き渡しに「好意的な考慮を払う」と日米で合意した。しかし、「考慮」の基準はあいまいで、その後も米側が引き渡しを拒んだケースがある。

<米軍岩国基地関連の主な事件>

1958年8月 米兵のトレーラーが踏切内で特急と衝突し31人が重軽傷
  69年10月 米兵3人が兵器庫から自動小銃など29丁、実弾を盗み暴力団         に横流ししていたことが発覚
  76年5月 飲食店従業員の女性が自宅で米兵に殺害される
2007年11月 米兵4人が広島市内で女性に暴行したとして、広島県警が集団         女性暴行とわいせつ目的略取、強盗容疑で書類送検。その後、         広島地検は4人を不起訴に
  10年9月 岩国市の市道で男性が軍属女性の運転する乗用車にはねられ死        亡。その後、山口地検岩国支部は女性を不起訴に

課題 出入国が自由

 軍人の出入国について日本の法律は適用されず、パスポートも査証も必要ない。ただし、身分証明書は携帯しなければならない。

課題 排他的な基地管理権

 基地を管理、運営する権利は米側にあり、条文には「必要なすべての措置を執ることができる」と明記している。例えば、基地内で環境汚染や事故が発生した際、日本側が調査しようとしても立ち入りを拒否される場合がある。

 また、米側は基地を返還する際、借りた以前の状態に戻す義務を負わない。

課題 光熱費や従業員の人件費負担

 在日米軍施設の維持費は、基本的に米側が払うことになっている。しかし、実際は、日本側が人件費の一部などを「思いやり予算」として負担している。

 思いやり予算は地位協定上、支払う義務はないが、2018年度当初予算で1968億円を計上。国民1人当たり約1500円。1978年度、基地従業員の福利費などから始まり、87年度以降、従業員の諸手当・給与や光熱費、訓練移転費などが加わった。日本政府は、これ以外に米軍再編関係経費なども負担する。

 外務省によると、駐留米軍経費の日本の負担率は2002年時点で約75%。他国に比べて負担率は高く、米側は評価するが、日本国内には削減を求める声も根強い。

課題 運用の協議 非公開

 地位協定の運用を担うのは、日米両政府の代表でつくる日米合同委員会。協定を実施するのに必要な「すべて」の事柄を話し合う。日本側は外務省北米局長、米側は在日米軍司令部副司令官が代表を務める。合同委は大きな権限を持っている一方、その決定事項に国会の承認は必要なく、国民の意思は反映されにくい。

 合同委は非公開で、月2回、東京都内で開かれている。その内容や合意事項は、両政府が公表に同意した場合にだけ明らかにされる。これまでの合意件数も公表されていない。

 米軍関係者による事件を巡り、「重要な案件以外、日本側は裁判権を放棄する」とする「密約」が交わされていたことが判明するなど、透明性が課題になっている。

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米兵らの裁判に影響/施設共用の根拠

 日米地位協定第2条は「米国は日本国内の施設、区域の使用を許される」と定め、基地の設置を認めている。岩国基地もその一つだ。防衛省によると、自衛隊との共同使用も含め、米軍が協定に基づき使っている施設・区域は全国に128カ所(2018年1月1日現在)。

 地位協定は、岩国基地の軍人、軍属が関与した事件事故にも影響を与えてきた。

 岩国市の男性=当時(66)=が10年、軍属の女性=同(32)=の乗用車にはねられて亡くなった。米側は地位協定に基づいて女性への裁判権を行使。山口地検岩国支部は女性を不起訴にした。女性は米側の交通裁判で有罪になったものの、科された処分は4カ月の運転制限など。「処分が軽い」との批判の声が上がった。

 07年には、広島市内で岩国基地の米兵4人が同市内の女性=当時(19)=に暴行したとして、広島県警が集団女性暴行などの疑いで4人を書類送検した。公務外の犯罪のため裁判権は日本側にあったが、広島地検は不起訴処分にし、理由は明らかにしなかった。地位協定に阻まれ、身柄を拘束して十分に捜査できなかったとの指摘もあった。

 事件事故やトラブルだけでなく、岩国市民に身近な施設の利用についても協定が関わっている。同市愛宕山地区の野球場「絆スタジアム」などの運動施設。岩国基地への空母艦載機移転に伴い、国が整備し、米側に提供した。昨年11月から野球場エリアの日米共同利用が始まったが、その根拠は地位協定にある。

 艦載機受け入れの「恩恵」と言えるスタジアム。共同使用ではあるが、正式には日本側が「一時使用」するとの位置付けだ。

<日米地位協定に関する主な動き>

1951年9月 サンフランシスコ平和条約、旧日米安保条約調印
  52年2月 日米行政協定調印
  53年9月 行政協定の刑事裁判権条項改定。交渉で日本政府が重要な案件を        除いた裁判権放棄を表明
  57年1月 群馬で主婦が米兵に射殺されるジラード事件発生
  60年6月 現行安保条約、地位協定発効
  72年5月 沖縄本土復帰
  95年9月 沖縄で米兵3人による女児暴行事件。沖縄県警は3人の身柄引き        渡しを求めたが、米側は拒否
    10月 日米両政府が地位協定の運用改善で合意
  96年9月 沖縄県民投票で米軍基地縮小と日米地位協定の見直しに全有権者        の過半数が賛成
2004年8月 沖縄国際大に米軍ヘリ墜落、米軍は県警の現場検証要請を拒否
  15年9月 地位協定を補う環境補足協定が発効。米軍基地が返還される約7        カ月前から日本側関係者による立ち入り調査などを認めた
    12月 日米両政府が16年度から5年間の在日米軍駐留経費負担(思い        やり予算)について、総額9465億円で合意。11~15年度        の総額から微増し、減額実現せず
  17年1月 米側に優先的裁判権がある在日米軍属の対象を縮小するための補        足協定が発効

主権放棄の性格強い 伊勢崎賢治・東京外国語大大学院教授

 米軍にさまざまな特権を認める日米地位協定。その課題などについて、地位協定に詳しい東京外国語大大学院の伊勢崎賢治教授(60)=国際関係論=に聞いた。

  ―そもそも地位協定とは。
 戦時ではなく平時に、ある国の中に他国の軍を駐留させる「異常事態」を可能にするものだ、と言える。日本では、米軍を中心とした連合国軍総司令部(GHQ)の占領が終わった後、日米で結ばれた行政協定が始まりだった。

  ―問題点は。
 ある国で外国人が罪を犯した場合、その国の法律で裁かれるのが国際常識。それは国家の主権の大事な要素だ。日米地位協定はその例外をつくる取り決めだが、他国の同様の協定と比べて主権を放棄する性格が強い。

 例えばイタリアと米国との取り決めでは、米軍の訓練や作戦行動はイタリアの法律に従う。イタリア側が住民の安全を脅かすと判断した場合、米側に中止を求めることもできる。日米間では米軍の行動を管理する取り決めがなく、日本が訓練や作戦行動にノーと言えないのが実態だ。

  ―日本政府に、地位協定の改善を米側に求める動きは見えにくいです。
 地位協定をはじめとする基地問題が沖縄の問題と捉えられがちで、国民的な議論になっていないからだ。協定の変更は、米国とより対等な関係を目指すことにつながり、戦力の不保持などを定めた憲法9条2項の議論に直結する。それも議論が進まない大きな要因だろう。

  ―岩国から何を訴えるべきでしょうか。
 異国に軍を駐留させることは、実は派遣国も神経を使う。米国も今なお試行錯誤を続けている。そこに交渉の余地が生まれる。

 その点で、岩国基地と地元自治体、国でつくる岩国日米協議会はとても興味深い枠組みだ。地位協定に地元を交えた協議機関を設ける規定はなく、他の在日米軍基地のある地域では聞いたことがない。積極的に地元の要望を伝える場として協議会を活用し、意義のある前例にすべきだ。

いせざき・けんじ
 1957年生まれ。早稲田大大学院理工学研究科修士課程修了。国際NGOで活動後、国連平和維持活動の幹部、日本政府の特別代表としてアフリカやアフガニスタンの紛争地で武装解除などを担当した。著書に「本当の戦争の話をしよう」など。2006年から現職。東京都出身。

(2018年4月15日朝刊掲載)
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