連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 地位協定の壁 <2> まかり通る軍の論理

「歯止めに」市民が監視

 米軍岩国基地(岩国市)の滑走路を見渡せる川土手を歩くと、たいてい出会う人がいる。戸村良人さん(71)=同市。5年ほど前から基地を離着陸する米軍機の写真を撮り続け、自身のホームページに掲載している。昨年は311日も通った。「こうやって監視しておかないと、米軍の実態は分からんよ」

 元広島市職員。平和活動に力を入れてきた。岩国市は妻の古里。岩国基地に本格的に通うようになったのは、普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に配備される輸送機オスプレイの岩国搬入がきっかけだった。

 昨年8月29日、岩国基地を飛び立ったオスプレイがエンジントラブルのため大分空港に緊急着陸した。戸村さんはその前日、岩国でその機体のエンジンから白煙が上がっていたのを撮影していた。同9月6日には、プロペラの一つが止まったまま岩国に着陸するKC130空中給油機を確認した。「米軍は、こうしたトラブルの直後に積極的に説明せん。基地の中は治外法権みたいなもんだから」

 日米地位協定は「米国は施設や区域の管理に必要な全ての措置を執ることができる」と規定する。日本政府や、基地のある自治体は、米軍の基地運用や行動に事実上介入できない。

 その現実は岩国でも見せつけられている。基地と地元、国でつくる岩国日米協議会では、正月三が日や盆期間中は訓練や飛行をしないことなど、米軍機の運用ルールを確認している。しかし、確認事項が守られないケースは相次ぐ。

 さらに、基地の運用ルールには確認事項に反する記述があった。三が日や盆の訓練、飛行を可能としていた。

 「日米間の信頼関係に基づく紳士協定」。3月、山口県議会一般質問で、県の担当者は確認事項をそう評した。

 基地の「壁」は、さらに高くなっている。1978年度に始まった環境省の立ち入り調査が2014年度以降、岩国基地をはじめ、全国の米軍施設で中止されていた。同省は米側の意向の有無などを明らかにしない。

 「部隊運営を最優先する米軍は、われわれとは立場が全く違う」。基地近くに暮らす山本満治さん(80)は強調する。かつて岩国市基地対策担当部長として、基地側と直接やりとりしてきた実感だ。

 部長時代の90年代、岩国では激しい騒音を伴う夜間離着陸訓練(NLP)が繰り返されていた。山本さんは基地に副司令官を訪ね、時に通訳から止められるまで声を荒らげてNLPの中止を求めた。返答はしかし、「上の方に伝える」。米軍に自治体の声は届くのか―。そんな疑問を感じていた、と山本さんは明かす。

 空母艦載機の移転が完了した岩国基地。00年を最後に実施されていない陸上空母離着陸訓練(FCLP)が行われる懸念は消えない。安倍晋三首相は9日の参院決算委員会で「基本的に岩国で実施しない」と述べたが、米側は確約していない。

 「地位協定を変えることに、米軍はうんと言わないだろう。それでも米軍に歯止めをかけるのは住民の声しかない」。山本さんは今、一市民として思う。(久保田剛)

陸上空母離着陸訓練(FCLP)
 空母艦載機のパイロットが艦上での離着陸の技量を向上させ、維持するための訓練。滑走路を甲板に見立てて着陸直後に再び離陸する「タッチ・アンド・ゴー」を繰り返す。夜間離着陸訓練(NLP)もその一つ。日米両政府は1989年、硫黄島(東京)での暫定実施で合意。日本政府は、恒常的な訓練施設の候補地に馬毛島(鹿児島県)の購入方針を示している。岩国市は、艦載機移転に絡む安心安全対策の一つとして、FCLPを岩国で実施しないよう国に求めている。

(2018年4月16日朝刊掲載)
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