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松井広島市政 2期目あと1年 核兵器廃絶 政府動かすに至らず

 「大臣にお願いする宿題がある」。3月19日、広島市中区の平和記念公園を初めて訪れたアイルランドの大臣と園内で面会した松井一実市長は、いつもの言葉で切り出した。「宿題」とは、帰国後、核兵器廃絶を目指す平和首長会議(会長・松井市長)の加盟都市を増やす活動のことだ。

米でも浸透図る

 「迎える平和」を掲げる松井市政。オバマ前米大統領の訪問も追い風に、昨年度はチェコの首相など海外の要人79人を迎えた。松井市長は面会で首長会議をPR。広島の事務局から国内外に勧誘も進め、加盟都市は、市長に就いた7年前の1・5倍の7568(163カ国・地域)になった。

 市はさらに増やし、核兵器禁止条約を全ての国が批准するよう各国政府に要請を強める考え。核超大国の米国でも同会議の浸透を図ろうと、松井市長は6月に全米市長会議に出席する。

 米国などの保有国や「核の傘」の下にある国は安全保障に核抑止力が必要と唱えて条約に背を向ける。国内は全市区町村の98・7%が平和首長会議に加盟しているが、政府は昨年の条約交渉に参加せず、批准の意思さえ見せない。加盟都市を増やすだけでなく、日本を含む各国政府への働き掛け方が問われている。

長崎市長は批判

 昨年の平和宣言では両被爆地で差が出た。松井市長は、禁止条約批准促進を目指し、日本政府がいう保有国と非保有国の対立を解く橋渡しを「本気で」と求めたが、政府自身に批准を迫る直接の言葉はなかった。一方で、田上富久・長崎市長は「ヒロシマ・ナガサキ条約」と呼んで政府の制定交渉不参加を批判。一日も早い批准を明確に求めた。

 3月の広島市議会では、米国が小型核開発などを盛り込んだ核体制の見直し(NPR)を政府が核抑止力の観点で「高く評価」したことへの抗議を一部の市議が要請。しかし松井市長は、政府は廃絶を目指してきたなどとして応じなかった。「政府に控えめすぎでは」という声も挙がる。

 一方、複数の市関係者は「政府の主張の悪い点を責めるより、良い点をほめて実行させる方が有益」と擁護する。3月、政府主催の「賢人会議」が提言した「安全保障上の核兵器の役割低減」を政府に実行させるのが条約批准への近道―。そうみる専門家もいる。

 ただ、日本被団協や広島の反核団体はNPRを評価した政府の姿勢に抗議し、被爆国を率先して批准へ動かそうと声を上げている。日本被団協の箕牧(みまき)智之代表理事(76)=広島県北広島町=も「長崎に負けない強い訴えを」と市に願う。被爆地の民官が廃絶を求める声をどう束ね、強めるか。松井市長には、一体感を生み出す旗振り役が求められる。

 昨年のノーベル平和賞を受けた非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))は、原爆資料館で禁止条約の意義や各国の批准状況の展示を増やすよう提案する。元資料館長の原田浩さん(78)=安佐南区=は「ICANなどのアイデアも取り込み、発信力を高めてほしい」と市に期待する。(水川恭輔)

核兵器禁止条約
 開発、保有、使用、核抑止政策の中心をなす「使用するという威嚇」など、核兵器に関する行為を全面的に禁止する初の国際条約。前文で「被爆者」の受け入れ難い苦しみに留意すると明記した。昨年7月、国連での交渉会議で122カ国・地域が賛成、採択された。50カ国が批准の手続きを終えた後、90日後に発効。現在、批准の手続きを終えたのはメキシコやタイなど7カ国。

(2018年4月18日朝刊掲載)

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