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社説・コラム

社説 日米首脳会談 非核化 念押しできたか

 訪米中の安倍晋三首相とトランプ大統領の会談が始まった。主な議題は、北朝鮮問題と日米間の通商・貿易である。トランプ氏との良好な関係を築いてきたと自負する安倍首相は、早くも「非常に重要な点で認識を共有した」と表明した。日本側の意向を実際、どれだけ伝えられたのだろうか。

 北朝鮮を相手にして、先月の中国に続き、韓国、米国の首脳会談が続く。公式対話のルートを持たない日本は蚊帳の外の感がある。最大の同盟国の米国に、拉致問題や核・ミサイルの脅威に向き合う姿勢を念押ししておかなければなるまい。

 トランプ氏は米朝首脳会談での拉致問題の提起を明言し、「日本のためにベストを尽くす」と表明した。安倍首相にしてみれば満額回答だろうが、額面通りには受け取れない。

 米国では、11月に中間選挙がある。与党共和党の勝利のため、トランプ氏には国内外での具体的な成果が求められよう。鉄鋼とアルミニウムの輸入制限はその一策とされる。日本人の拉致問題に、どこまで肩入れするかは見通せない。

 日本政府が狙うのは、包括的な人権問題としての議題化である。米国民も3人が北朝鮮に拘束されており、日本人の拉致問題とセットで議論できるとみる。昨年11月にトランプ氏が来日した際には被害者家族との面会を用意し、理解を求めた。

 日米首脳会談では、核・ミサイル問題を巡り、北朝鮮の核放棄を「完全かつ検証可能で不可逆的な方法」で実現するまで最大限の圧力を維持する方針を確認した。そのロードマップ(行程表)として、2020年夏ごろまでの完全廃棄を目指す案が浮上しているという。トップ同士で突っ込んだやりとりができたのか、気になるところだ。

 米国にとって直接の脅威は、米本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)である。トランプ氏が目先の成果を求めるなら、核兵器の議論は後回しにして、ICBMだけ廃棄させればいいと考えるかもしれない。だが、中・短距離ミサイルも脅威である日本にとっては悪夢のシナリオだ。絶対に思いとどまらせなければならない。

 米紙の報道では、次期国務長官のポンペオ中央情報局(CIA)長官が半月ほど前に極秘で北朝鮮を訪れ、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と面会したという。史上初の会談に向けた下交渉は今後も続くはずだが、トランプ氏は「会談が開かれない可能性もある」とも言及している。成果が得られそうになければキャンセルも辞さないと、くぎを刺すメッセージだろう。

 日本にとって、北朝鮮との交渉がこれほど他国頼みになっている現状は情けない。拉致問題は02年に北朝鮮が認めたのに、解決の糸口すら見えない。最終的には、日朝間でしか解決できない問題である。独自交渉を切り開いていく必要がある。

 首脳会談では引き続き、通商・貿易問題がテーマになる。トランプ氏が、北朝鮮問題を絡めて、日本側に「取引」を迫ってくるとの観測もある。

 安倍首相は、政権不信が高まる中、外交で成果を上げ、支持率を回復させたいとの思惑もあるだろう。短絡的な成果を狙うあまり、農業分野などでの安易な譲歩は許されない。

(2018年4月19日朝刊掲載)

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