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黒い雨がんリスク増認めず 放影研 1万3000人解析で結論

 放射線影響研究所(放影研、広島市南区)は7日、広島、長崎への原爆投下直後に放射性降下物を含む「黒い雨」を浴びたと答えた約1万3千人のデータの解析結果を公表した。黒い雨を浴びたことで、がんになるリスクが高まる傾向は見られないとした。

 放影研が1955~61年ごろに調査し、データを保管していたことが昨年11月に判明。被爆後間もない時期の、黒い雨の健康影響に関する大規模な調査例はほとんどなく、結果が注目されていた。専門家から、解析方法を疑問視する声も出ている。

 データは放影研が広島、長崎の計12万人に面接して聞いた質問に対する回答の一部。「原爆直後雨ニ遭イマシタカ?」の問いに約1万3千人が「Yes」と答えた。うち大半は広島の人だった。雨に遭った場所や脱毛など急性症状の有無なども尋ねている。

 回答者のうち、直接浴びた放射線量が不明の人を除く被爆者8万6671人を選んだ。遭ったと答えたのは広島で5万8535人中1万1667人、長崎で2万8136人中734人。2003年まで固形がんや白血病で死亡したり、発症したりした比率を、雨を浴びた人と浴びていない人との間で比較した。

 その結果、雨に遭ったことによるリスクの上昇はないと結論付けた。長崎で雨を浴びた人のうち固形がんで100人が死亡。リスクが約30%高かったが、放影研は「母集団が734人と少ないことが影響した」とみる。

 大久保利晃理事長はデータに統計上の偏りがあるとし「科学的な分析に耐えられる内容ではない」との認識をあらためて強調した。

 一方、黒い雨の研究に取り組む広島大原爆放射線医科学研究所(原医研、南区)の大滝慈教授(応用統計学)は「雨を浴びた後の症状まで追跡した大規模調査は他になく貴重なデータ。今回の解析は大まかすぎ、詳細に解析する余地がある」と指摘する。

 放影研は昨年12月から、広島市や被爆者団体などからの要望を踏まえ、解析を進めていた。(田中美千子)

黒い雨の解析継続を 被爆地の専門家要望

 放射線影響研究所(放影研、広島市南区)が7日公表した被爆者約1万3千人のデータの解析結果。原爆投下後に降った「黒い雨」の健康影響について実態解明に取り組む被爆地の専門家たちから「貴重なデータを十分に活用していない」と解析の継続を求める声が上がった。(田中美千子)

 今回の解析は、未解明な点が多い黒い雨の発がんリスクや、人体への影響の現れ方の手掛かりがつかめるかどうかが焦点だった。

 脱毛、発熱などの14種類の急性症状の有無と程度、発症時期などを尋ねたこれだけの大規模な調査は存在しないとみられる。しかし放影研は急性症状に関する解析はしなかった。「同じ聞き方をしておらず、科学的な分析が困難」という理由からだ。

 昨年秋、データの存在に気付き、放影研に指摘した長崎市保険医協会の本田孝也会長は「黒い雨を浴びた人の期待に応えていない」と疑問を投げ掛ける。

 データの信頼性を理由に、放影研は一貫して活用することに消極的な姿勢を示してきた。広島大の星正治名誉教授(放射線生物・物理学)も「外部の専門家も入れて、もっと解析を尽くすべきだ」と指摘した。

 福島第1原発事故以来、黒い雨とも関係する低線量被曝(ひばく)や内部被曝の問題に、国民の関心は高い。広島県「黒い雨」原爆被害者の会連絡協議会の高野正明会長(74)=佐伯区=は「きちんとした解析は、黒い雨を浴びた人だけでなく、不安を抱える福島の人たちに役立つ」と訴える。

放射線影響研究所
 原爆放射線による健康への影響を調査するため、1947年に米国学士院が広島市に開設した原爆傷害調査委員会(ABCC)が前身。75年、日米両政府の共同出資で運営する放影研となった。広島市南区と長崎市に研究所を置く。被爆者の健康や被爆者の子どもに関する調査などを行っている。

(2012年12月8日朝刊掲載)

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