社説・コラム

社説 イラン核合意 米離脱 中東危機 強める愚策だ

 中東地域の緊張をさらに高めてしまうのではないか。まっとうな判断とはとても思えない。

 米国のトランプ大統領が、イラン核合意からの離脱を表明した。経済制裁については「最高レベル」に戻すと宣言した。一方的な措置に、イランは強く反発している。

 国際社会の懸念は深まるばかりだ。英国やフランス、ドイツは、核合意にとどまって履行を続けるとの共同声明を発表した。イランまで合意から抜けるような、暴発の連鎖は何としても食い止めねばならない。

 イランの核開発に歯止めをかける合意は、2015年に米国やロシア、中国、英国、フランス、ドイツの6カ国とイランが結んだ。今年2月、全ての関連施設を査察する国際原子力機関(IAEA)が、イランは合意を守っているとの報告書をまとめるなど、成果は上がっていると言えよう。

 しかし、トランプ政権はかねて「史上最悪の合意」と再三批判してきた。1979年の米大使館人質事件以降、イラン敵視が根強い国内世論を意識したに違いない。熱心に自らを支持してくれる宗教保守派が、イランと対立するイスラエルを後押ししていることも考えたようだ。オバマ前大統領の業績を全て否定しようとして、国際世論を無視したようにも映る。

 トランプ氏が指摘するように核開発を制限する一部条項は25年に期限切れとなるなどの課題はある。それでも延長を求めればいいはずだ。離脱に踏み切る理由としては説得力に欠ける。

 トランプ政権は決して妥協をしない―。来月にも首脳会談を行う北朝鮮に、強硬姿勢を見せる思惑もあるのだろう。しかし逆効果にならないか、疑問が残る。パリ協定や環太平洋連携協定(TPP)といった国際的な取り決めでも、自分の都合で離脱してきた。「米国第一」の政権だから、いつでも手のひら返しがあり得ると、北朝鮮が警戒感を強めるかもしれない。

 イラン国内にも影を落としそうだ。強硬派が台頭すれば穏健派や改革派が積み上げてきた欧米協調路線を揺るがす恐れもある。万一、ウラン濃縮など核開発を再開させれば、対立するサウジアラビアなども核武装に乗り出しかねない。核拡散に歯止めがかからなくなり、中東情勢はより危うくなろう。

 イスラエルは離脱を歓迎している。イランが核開発をひそかに進めた証拠として5万ページを超す資料などを示して、米国に離脱を促していた。事実上の核兵器保有国であるのに、他国の核開発をなぜ批判できるのか、理解に苦しむ。

 米国も、イスラエルの核に対してだんまりを決め込んでいるのでは、二重基準で身勝手としか言えまい。

 しかも、エルサレムをイスラエルの首都と認め、近く大使館を移転させる。対立をあおっているようにしか見えない。

 核拡散を防ぎ中東の安定にも寄与する核合意を、日本は支持しているとの談話を河野太郎外相が出した。当然だろう。欧州各国と協力してイランに自制を求めつつ、今後も核開発を制限するような仕組みづくりを進めていくことが必要だ。米国には核合意の重要性を改めて説き、復帰するよう粘り強く説得を続けなければならない。

(2018年5月10日朝刊掲載)
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