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イワクニ 地域と米軍基地 続フェンスのそばで <上> 変化

 米軍岩国基地(岩国市)への空母艦載機移転の動きを体感するため、同基地のそばに住み始めて7カ月近くがたった。その間、艦載機約60機の移転は段階的に進み、3月末に完了した。極東最大級へと変貌した航空基地が、地域にどんな影響を与えているのか。昨年12月の連載「フェンスのそばで」に続き、住民たちの営みや思いを追った。(藤田智)

艦載機ごう音 日常に

育児女性は「ストレス」

 基地滑走路から2・5キロほど離れた場所に記者のマンションはある。仕事が休みだった4月16日午後3時、重く、のしかかってくるようなごう音が断続的に響いた。ベランダに出て滑走路の方を見ると、戦闘機が次々と離陸していた。「全部で13機の艦載機がさみだれ式に飛び立った」。直後に訪れた基地を見渡せる川沿いの土手で、顔見知りになった航空ファンが教えてくれた。

 昨年10月中旬に移り住んだ。騒音のある暮らしは日常になり、正直なところ慣れ始めていた。しかし、これだけの数の戦闘機が一気に飛ぶのを見たのは初めてだった。フェンスのそばに住んでいる現実に引き戻された。

 艦載機の移転完了後、うるささは確実に増した。他の住民はどう感じているのだろう。後日、基地から500メートルほど離れた「あさひ保育園」を訪ねた。

 園舎は全ての窓に防音工事が施されている。そのためか、佐川智恵子主任(54)は「(飛行が)増えたとは感じる。だけど閉め切っていれば園児はそれほど気にしていない」。園庭での遊びにも影響はないという。

「夜飛ばないで」

 一方、近所の女性(30)は戸惑いを隠さない。もうすぐ1歳の長女をあやしながら、「この子が昼寝から起こされてむずかることもある」。結婚を機に広島市から引っ越して約3年。当初、騒音はあまり気にならなかった。だが、艦載機移転が本格化した昨年末ごろから変化を実感し始めた。長女を寝かしつける午後8~9時ごろにごう音が響くとストレスがたまる。

 艦載機は今月3日から、東京・硫黄島で猛烈な騒音が発生する陸上空母離着陸訓練(FCLP)を始めた。現地の天候によっては岩国で実施される可能性がある。FCLP後、パイロットが空母への着艦資格を得る訓練(CQ)もあり、岩国で夜間の離着陸が増える懸念もある。「せめて夜遅くは飛ばないで」。女性の願いは切実だ。

隊員逃走に不安

 保育園の近くには、記者もよく利用するコンビニがある。4月以降、米軍関係者とみられる夫婦や若者の姿が増えたと感じる。「夜や休日は特に多い」と同店。米軍人たち約3800人が今年後半までに岩国への引っ越しを終えれば、さらに利用は増える。

 基地人口の増加に不安を抱かせる事件が起きた。4月21日朝、基地内で拘束されていた海兵隊員がフェンスを乗り越えて逃走。約2時間半後、岩国署が市街地で身柄を確保し米側に引き渡した。

 「ゲートの外に憲兵が何人もいるから珍しいとは思ったが…」。当時、基地前をジョギングしていた近くの60代男性は翌日の報道で一連の経緯を知った。「なぜ、すぐに住民に伝えてくれなかったのか。被害がなくてよかったというのは結果論にすぎない」。住民の安心安全がなおざりにされていないか、男性は一抹の不安を感じていた。

 4月の基地周辺の騒音測定回数と市への苦情件数はいずれも月別最多になった。今月8日には、1日だけで200回の騒音を基地南側で計測。騒音軽減などを目指した2010年の滑走路沖合移設後、最多になった。フェンスのそばの住環境は厳しさを増している。

米空母艦載機移転計画
 米海軍の空母ロナルド・レーガンに搭載する艦載機約60機を、厚木基地から岩国基地へ段階的に配備する計画。2017年8月に第1陣のE2D早期警戒機5機が到着。11~12月にかけてFA18スーパーホーネット戦闘攻撃機2部隊(24機程度)とEA18Gグラウラー電子戦機部隊(6機程度)、C2輸送機1機が配備された。18年3月末までに残るスーパーホーネット2部隊(24機程度)が移り、完了した。

(2018年5月12日朝刊掲載)
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