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連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 続フェンスのそばで <下> フレンドシップデー

笑顔の一方 情報は管理

米側と住民 「透明性」に溝

 こどもの日の5日、米軍岩国基地(岩国市)と周辺は、非日常的な雰囲気に包まれる。年に1度、基地が一般開放される「フレンドシップデー」。フェンスの向こう側に入れる数少ないチャンスとあって、今年も全国各地から人が押し寄せた。

全国から21万人

 記者の自宅マンションから約500メートル離れた基地ゲート前には、午前5時すぎに早くも100人を超える行列ができていた。前日の正午から並んだ先頭の会社員長瀬幸史さん(49)=兵庫県たつの市=は「航空ショーが楽しみ。少しでも間近で見られる場所を取りたくて」。開門時間の午前7時、列は千人以上になっていた。

 イベントは1973年に始まった。近年、来場者は岩国市の人口(約13万人)を大きく上回る。今年は昨年より5千人多い21万5千人(基地発表)。厚木基地(神奈川県)の空母艦載機が岩国への移転を完了してから初めてで、最新鋭ステルス戦闘機F35Bがアジア圏で初のデモ飛行をするという目玉もあった。

 ゲート前に並ぶ露店でサンドイッチを売る若者がいた。大阪市から帰省中だった23歳の男性。基地近くの老舗ステーキ店の次男。店は戦後間もなくオープンし、多くの米兵に親しまれてきた。「一番岩国らしい日。ずっと続いてほしい」。率直な思いだ。

 記者も入場者の列に加わり、1時間半かけてやっとゲートに着いた。基地の中を歩くと、いつもは軍用機が並ぶ駐機場がピクニックエリアになっていた。家族連れがシートを広げ、米国サイズの大きなピザをつまんでいた。展示された戦闘機や大型輸送機のそばでは、米兵が笑顔で記念撮影に応じていた。

 「日本の皆さまに感謝の意を表し、岩国基地で行われている運用の透明性を高める方法の一つ」。基地司令官のリチャード・ファースト大佐は開催の意義についてコメントした。

ルール普段通り

 その言葉とは裏腹に、軍事施設である現実を垣間見た。基地が報道陣向けに設定した艦載機パイロットのインタビュー。「いつ厚木から移ってきたのか」「岩国の暮らしで楽しみにしていることは?」。そうした質問を、傍らにいた基地報道部の担当者は、イベントに直接関係ないとして受け付けなかった。

 事前の取材申請の際、基地から取材ルールの用紙が配られていた。確かに「インタビューはイベントに関連することだけに限る」とあった。会場の各所にいた米兵への個別取材でも同様だった。軍事情報を厳しく管理する基地のルールは、この日も普段通り厳格に運用された。

 イベントから3日後の8日。記者の自宅にごう音がとどろいた。3日から東京・小笠原諸島の硫黄島で始まった艦載機の陸上空母離着陸訓練(FCLP)に絡む運用が本格化したようだ。岩国での動きがFCLPに関連した訓練かどうか米海軍に問い合わせたが、13日までに回答はない。

 透明性―。同じ言葉でも、米側と周辺住民との間で、いまだ埋められぬ溝があると実感する。(藤田智)

(2018年5月14日朝刊掲載)

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