社説・コラム

社説 パレスチナ情勢緊迫 過剰な武力行使 やめよ

 米国が在イスラエル大使館をエルサレムに移転させた。これを巡るパレスチナ自治区ガザでの抗議デモ参加者に、イスラエル軍が発砲し、多数の死傷者が出ている。しかし、イスラエルのネタニヤフ首相は「全ての国は境界を防衛する義務がある」と銃撃を正当化し、国際社会で非難の声が高まっている。

 犠牲者には子どもも含まれていた。ネタニヤフ氏は軍の行き過ぎた武力行使を直ちにやめさせ、事態の沈静化に努めるべきだ。フランスのマクロン大統領は「民間人を多数殺傷した過剰な暴力」との声明を出し、トルコなどは大使を召還した。

 15日はイスラエル建国70年の記念日であると同時に、パレスチナ人が土地を追われた「ナクバ(大惨事)」の日だった。難民の移動が厳しく制限されるガザ地区は「天井のない監獄」と呼ばれる。絶望的な心情は世代を超えて引き継がれていて、自暴自棄とも思える行動を、さらにあおる恐れも否めない。

 ユダヤ教とキリスト教、イスラム教の聖地であるエルサレムは、国連決議で国際管理地区と規定され、イスラエルの首都として認められていない。これまでは、アラブ人によるパレスチナ国家を樹立し、ユダヤ人国家のイスラエルと平和的に共生する「2国家共存」が、米国を含む国際合意だったはずだ。

 とりわけエルサレムの帰属は宗教的な聖地を巡るデリケートな問題で、当事者の直接交渉で解決することにしていた。

 ところが昨年12月、トランプ米大統領はエルサレムをイスラエルの首都と認めた。さらに国際社会の反発を意に介さず、このたび大使館の移転を実行に移した。11月の米中間選挙に向け、親イスラエルであるキリスト教福音派の支持基盤を固める狙いがあるとされるが、代わりに失うものはあまりに大きい。

 トランプ氏が国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金拠出を一部凍結したことも重大である。UNRWAは530万人以上の難民に食料や医療などを提供してきたが、凍結によって未曽有の財政危機に直面する。イラン核合意からの離脱を含め、中東に混乱をもたらしたことをトランプ氏は自覚すべきではないか。

 さらにいえば反米、反イスラエルの過激派組織にテロの口実を与えかねない。イスラエルを「違法な占領者」と非難し、同国の生存権を否定するイランが強硬策に出る恐れもある。

 内戦が続くシリアに展開するイラン部隊とイスラエル軍の間で、ロケット弾と空爆の応酬も起きたばかりだ。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、エジプトなどアラブ諸国は、イランの脅威を理由にイスラエルに接近し、これがイスラエルの強硬姿勢にもつながっていよう。

 こうした中、日本政府はエルサレムに大使館を移転することはせず「2国家共存」によるパレスチナ問題解決の枠組みは尊重する見通しである。国際社会とともに米国に大使館移転の再考を求め、イスラエルには自制を求めるべきではないか。

 また、UNRWAの日本人幹部は日本に新たな資金援助を求めており、この分野の人道支援は可能だろう。パレスチナの若者たちが絶望的な行動に出ないよう、支援の枠組みもあらためて築かなければならない。

(2018年5月16日朝刊掲載)
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