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連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 ドイツ・イタリアから <5> 核の共有

保管基地への攻撃危惧

独、有事に搭載・出撃も

 ベルギーとの国境近くにあるドイツ・ビュッへル空軍基地。正面ゲートの近くで抗議の横断幕を掲げる地元住民たちに出会った。「今こそ核兵器をなくそう」。横断幕にはドイツ語でそう書かれていた。

 同基地はドイツ空軍の拠点だが、国内で唯一、米国の核兵器を保管しているとされる。米公文書の分析から判明した「公然の秘密」だ。1960年代に開発された核爆弾B61が約20発あるとみられている。

 「核兵器がある施設は間違いなく攻撃対象になる」。横断幕を手にエルケ・ケラーさん(75)は憤った。80年から基地近くで暮らし、地元の郡議会議員を務めた。約20年前、報道で核兵器の存在を知り、住民と撤去を求め続けてきた。

 核の共有―。冷戦下、北大西洋条約機構(NATO)で始まった集団防衛戦略だ。単に米国がNATO域内に核を配備するだけではない。有事の際、配備国の空軍機が米国の核を搭載し、出撃する。

冷戦終結で削減

 60~70年代のピーク時、欧州に7千発以上もあった米国の核。冷戦終結で存在根拠が薄らいだのを背景に、大幅に削減された。「それでも、私と同じドイツ人が核を投下する可能性が現にある。その恐ろしさは、ヒロシマから来たのなら分かるだろう」。ケラーさんは語気を強めた。

 撤去を求める住民の思いとは裏腹に、米国はB61の改良を進めている。目標へ精密誘導できる機能を加え、味方や民間人への被害を抑えて「使いやすい核」にする。敵陣に近づけるステルス戦闘機など幅広い機体への搭載も目指す。米軍岩国基地(岩国市)などに配備されているF35も搭載対象に検討されている機種の一つだ。

 岩国基地も米国の核と無縁ではなかった。「50年代末期から60年代末期にかけて、核兵器が揚陸艦に積み込まれ、岩国基地沖に係留されていた」。78年、元米国防総省のダニエル・エルズバーグ博士が証言した。その後もライシャワー元駐日米大使ら米高官から同様の証言が相次いだ。

 日本政府は2010年、日米核密約を巡る調査の中で「岩国への持ち込みは確認できなかった」とした。岩国基地から広島の爆心地まで直線で30キロ余り。原爆により廃虚となった被爆地の近くまで核が持ち込まれた疑惑は、核と米軍基地が決して切り離せない関係であることを物語る。

国是揺れる日本

 日本では最近も非核三原則の国是が揺れる。政界では、北朝鮮の脅威を理由に、国内の核配備容認にまで踏み込む声も目立つ。

 「核兵器がどれほど悲惨な事態をもたらすか。その非人道性はヒロシマ、ナガサキで分かっているはず」。ドイツで原爆展を手掛け、ビュッヘル町での抗議活動も支えるハイジ・カッサイさんは日本の状況を嘆いた。

 核兵器禁止条約の制定を促し、昨年10月、ノーベル平和賞を受賞した国際非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))のメンバーでもある。条約の採択では、米国の「核の傘」に入る日本、ドイツはともに不参加だった。カッサイさんは警告した。「核兵器が存在する限り、どこの軍事基地でもビュッヘルと同じ状況が起こり得る」(明知隼二)

核兵器禁止条約
 核兵器の開発や保有、使用、使用するという威嚇などを全面禁止する初の国際条約。前文で「被爆者」の受け入れ難い苦しみに留意すると明記した。条約制定交渉には120カ国以上が参加。昨年7月の国連の会議で賛成122で採択された。米国やロシアなどの核保有国、日本は不参加だった。50カ国が批准の手続きを終えた後、90日後に発効する。「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)によると、批准手続きを終えたのはオーストリアやメキシコ、タイなど10カ国。

(2018年5月24日朝刊掲載)

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