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社説・コラム

社説 米朝首脳会談中止 対話への道を諦めるな

 朝鮮半島情勢が再び緊迫するのだろうか。

 トランプ米大統領が、6月12日に予定されていた米朝首脳会談の「中止」を決めた。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に書簡を送って通告した。

 しかも北朝鮮が核実験場の坑道などを爆破し、「もう核実験は行わない」という意思を世界にアピールした直後のことだった。突然の中止通告が北朝鮮にどんな影響を与えるのか見通しにくい。不信感を強め、挑発行為を再開しないか心配だ。

 史上初となる会談が実現すれば、米朝双方にとって得るものは大きいはずだ。せっかく開きかけた対話の扉を閉じてはならない。諦めずに交渉再開の道を探るべきだ。

 今年3月、トランプ氏が即決して以来、会談に向けた準備は表面的には順調に進んでいるように見えた。ところが今月中旬になって、それまでの融和ムードが一変した。

 水面下の事前交渉で、最大の焦点である非核化の進め方を巡って対立し、難航していたことが背景にあったようだ。

 米側は「完全な非核化」を短期間で実現させ、それまでは見返りを与えない手法を譲らなかった。これに対し、北朝鮮は非核化には段階的な措置が必要だとし、経済制裁の解除や経済支援など早い段階からの見返りを求めており、相互不信から双方の溝は深まった。

 16日になって北朝鮮が「一方的に核放棄だけを強要するなら会談を再考する」と中止を示唆し、米国に揺さぶりを掛けた。韓国に対しても、いったん理解を示していた米韓合同軍事演習の中止を求め、南北閣僚級会談の取りやめを通告した。

 金氏が強気になったのは今月上旬、中国の習近平国家主席と2度目の会談を果たしてからだとの指摘もある。トランプ氏も「中朝会談後、北朝鮮の態度が変わった。気に入らない」と批判していた。

 北朝鮮が本気で核放棄に取り組むのか、疑心暗鬼になったのだろう。さらに貿易問題を巡って対立する中国が、北朝鮮への影響力を強め、米朝間の交渉へ割り込もうとしていることに危機感を抱いたのもしれない。

 トランプ氏は今後も北朝鮮に対する最大限の「圧力」を維持し、必要があれば軍事行動も辞さない考えも表明した。一方、金氏に宛てた書簡には「考え直すことがあったら、遠慮なく電話してほしい」ともつづり、交渉の再開に含みを持たせた。

 北朝鮮側も、拘束していた米国人3人を帰国させ、核実験場の廃棄に踏み切った。米国に多く「譲歩」してきたとの不満が根強いのかもしれないが、不毛な駆け引きを繰り返している場合ではなかろう。

 北朝鮮は今の体制の保証を求めて米国との直接対話を望んできた。このままでは、その機会を失いかねないと自覚しているはずだ。

 首脳会談が実現すれば、朝鮮戦争以来60年を超す両国の敵対関係の転換点になる可能性がある。米国だけでなく、国際社会が求めているのは完全で恒久的な朝鮮半島の非核化である。

 蚊帳の外に置かれた感は否めない日本だが、韓国、中国など関係国と連携して、米朝両国に対話の継続を呼び掛けていかなければならない。

(2018年5月26日朝刊掲載)

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