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社説・コラム

天風録 『核のミステリーツアー』

 延々60億キロ、7年がかりで、探査機はやぶさが小惑星から持ち帰ったのは「土」だった。髪の毛の直径より小さな微粒子が千数百個というから、土ぼこりに近い。それでも太陽系誕生の謎に迫る試料になった▲ある意味、宇宙より遠い旅先が地上にある。核実験場の爆破シーンが撮れると約束し、北朝鮮が手引きした旅路は謎だらけだったらしい。外電によれば、列車の窓はカーテンで覆われ、外を見るのを禁じられたという▲行程も不確かなまま、連れて行かれる「ミステリーツアー」である。用意した放射線の線量計を取り上げられた記者もいるそうだ。もしかして、線量計の数字がびくともしない偽の核実験場だと、ばれるのを恐れたのだろうか▲爆破の瞬間、土煙がもうもうと上がる画面を見ながら、少々心配になった。一列に並んでカメラを向ける報道陣が皆、ヘルメットをかぶっただけのあまりに無造作な姿だったからである。被曝(ひばく)する恐れがないか、確かめる専門家は見当たらなかった▲記者の習いからすれば、現場からひとつまみの土ぐらいは持ち帰っただろう。せめて襟足や服に砂粒が付いていれば、「核の地図」の穴を埋める貴重な試料になるのだが。

(2018年5月26日朝刊掲載)

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