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連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 ドイツ・イタリアから <10> 新たな規制

惨事後にルール見直し

「政府 本気で迫るべき」

 「国民の安全のため、米軍の行動に関するあらゆるルールを徹底的に見直す」。1999年3月5日。訪米中のイタリアのダレーマ首相は、クリントン米大統領(いずれも当時)と会談後、共同記者会見で断言した。イタリア・カバレーゼ町で低空飛行訓練中の米軍機がロープウエーのケーブルを切断し、20人が死亡した事故から1年余りが過ぎていた。

 国民の批判を受け、イタリアは国内での米軍の運用規定を改善するよう米側に迫ってきた。会談前日には、米国の軍法会議で事故機のパイロットに無罪評決が出た。反米感情を早く抑えたい米側の思惑も重なり、規定見直しは決まった。

短期間で具体策

 それからの対応は素早かった。両国の軍幹部をトップとする調査委員会は、約1カ月という短期間で具体策をまとめた。

 飛行訓練については新たな規制が盛り込まれた。カバレーゼ町から30キロ以内での低空飛行の禁止、国内全域での最低飛行高度の引き上げ、低空飛行訓練前の手続きの厳格化…。ルール違反が疑われる飛行の目撃情報を、イタリア軍が直接受け付けるようにもした。

 「今、米軍機が低空飛行をすることはない。新たな規制でカバレーゼ町の環境は劇的に改善した」。事故当時の町長、マウロ・ジルモッツィさん(60)は笑顔で話した。しかし、事故以前の話になると、顔つきは厳しくなった。「政府機関に苦情や陳情をしても、住民の恐怖などさまつな問題だと言わんばかりだった」

 事故を巡り、イタリア議会は超党派で調査委員会を設置した。2001年2月にまとめた報告書の指摘は、ジルモッツィさんの思いを代弁していた。「事故までの20年間、政府や軍は、地域住民や自治体の訴えに注意を払わず、無策だった。米軍の行動を無抵抗に受け入れていた」

 よそごとと思えなかった。西中国山地には広島、山口、島根3県にまたがる米軍の訓練空域「エリア567」が広がる。山あいの町では米軍岩国基地(岩国市)などから戦闘機が突如飛来。急上昇や急降下を繰り返したり、2機が「ドッグファイト」と呼ばれる空対空戦闘訓練を繰り広げたりしている。

あいまいな表現

 在日米軍の低空飛行訓練に関する99年の日米合意には、人口密集地域や学校、病院などについて「妥当な考慮を払う」としか記されていない。週末や祝日は米軍が「運用上不可欠」と判断すれば可能で、あいまいな表現が多い。住民や自治体は国に苦情を訴え続けてきたが、状況は大きく変わらない。

 「政府が本気で米側に迫らねば、動かない。政府や議会を支える国民の熱意も必要だ」と議会調査委の委員、元下院議員のエルビオ・ルフィーノさん(66)。自省の言葉も何度も繰り返した。「惨事が起きてからでは遅いのだ」

 在日米軍の訓練について、実効性のあるルールをいかに整備するか。イタリアの惨事からくみ取るべき教訓は多い。(明知隼二)

低空飛行訓練に関する日米合意
 米軍機の低空飛行訓練に各地から苦情が相次いだのを受け、国と在日米軍司令部などでつくる日米合同委員会が1999年1月に合意した。日本の航空法と同じ高度規制(人口密集地300メートル、その他150メートル)を適用▽学校や病院など公共の安全に関わる建物に妥当な考慮を払う▽週末と祝日の訓練は不可欠なものに限る―など。日米地位協定に基づき在日米軍には航空法上の規制が適用されないため、合意で補う狙いがある。

 「ドイツ・イタリアから」は終わります。

(2018年5月29日朝刊掲載)

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