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連載・特集

東京のヒロシマ <4> 八王子平和・原爆資料館

書籍・遺品 むごさ伝える

 東京都八王子市には、有志で運営する八王子平和・原爆資料館がある。市役所隣の民間ビル2階の一室に原爆文学などの書籍3千冊を展示し、毎週水曜と金曜に無料で公開している。原爆の熱で表面が泡だった瓦や、溶けてくっついた数枚の皿などの収蔵品に、じかに触れることもできる。

 資料を提供し、きっかけをつくったのは、2013年に86歳で亡くなった広島市出身の被爆者永町敏昭(としてる)さん。原爆投下時は市郊外の自宅にいたが、妹を捜すため市内に入り被爆した。戦後、中国新聞記者を経て1957年ごろに上京し、日本新聞協会に勤務。八王子の自宅に原爆関連本約400冊を集めた。

 「東京の人に広く見てもらいたい」。地元の被爆者団体などの協力で97年の開館にこぎつけた。

 永町さんの妻洋子さん(85)も、広島二中(現観音高)1年時に被爆死した兄の豊嶋長生(たけお)さんの遺品を寄せた。学徒動員先の爆心地そばで着ていた衣服。今夏は愛知県碧南市の平和団体に貸し出され、催しで展示される。洋子さんは「遺品を役立ててもらってありがたい。多くの人に原爆のむごさを感じてもらえるなら本望です」と言う。

 当初は10人以上の被爆者が交代で常駐し、来館者に被爆体験を語っていた。近年、運営は厳しさを増す。被爆者は高齢化し、日常的には活動できない。現在運営を支えるのは八王子市や近隣の8人。被爆者は1人だけだ。

 有志の一人、竹内良男さん(69)=東京都立川市=は「東京に資料館があるのは大事なこと。私たちは戦争の歴史をもっと学ぶべきだ」と力を込める。資料館を守ろうと、八王子市に公的施設への移設や家賃補助などの支援を求めている。(田中美千子)

(2018年5月31日セレクト掲載)

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