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連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 平和都市の周りで <3> 広がる訓練

「国策」日本原受け入れ

安全確保 住民に不安も

 「国防という極めて重要な国策に協力する必要がある」。3月、津山市議会定例会。谷口圭三市長は、陸上自衛隊日本原演習場(岡山県奈義町、津山市)での、米軍岩国基地(岩国市)の海兵隊による初の単独訓練を容認すると表明した。これで、米側から打診を受けていた地元2市町の容認判断がそろった。

 広島市の北東約170キロにある同演習場は、中四国地方最大の広さを誇る。陸自と米軍の共同訓練が過去3回実施され、自衛隊の演習も年260日程度ある。中国四国防衛局などによると、海兵隊の単独訓練には後方支援部隊約300人が参加。年14日以内、射撃や爆破の訓練、ヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)敷設訓練などを予定する。

距離3分の1に

 海兵隊はこれまで、同様の訓練を岩国から東に600キロ以上離れた陸自東富士演習場(静岡県)でしてきた。約3分の1の距離にある日本原での実施を望み、昨年2月、防衛局を通じて地元に打診した。

 津山市と奈義町で反応は分かれた。「自衛隊との共存共栄」を掲げる町の動きは速かった。町内に演習場の8割が広がり、陸自日本原駐屯地もある。打診から約1カ月後、町議会はヘリコプターの夜間飛行禁止などを条件に受け入れる決議案を賛成多数で可決。町長は防衛局に容認を伝えた。

 津山市では賛否が交錯した。市は、周辺住民と市議でつくる演習場対策委員会に意見を求めた。当初、「米軍の宿営地が民家に近くて不安」などと否定的な意見が多かった。宿営地の変更や自衛隊のパトロールなどの対策を防衛局が示したのを受け、昨年11月、市長に容認を答申した。

 津山市側の住民の思いは今も揺れる。演習場そばの川東町内会はいったん反対決議をしたが、容認へ転じた。杉浦良久会長(65)は「安心できる対策をしっかり取ってもらうことが大前提だ」。対策委員の一人は、沖縄で相次ぐ事件事故を挙げてつぶやいた。「日本を守ってくれるためなら仕方ないのか」

オスプレイ懸念

 事故やトラブルが相次ぐ輸送機オスプレイの飛来を懸念する声も根強い。東富士演習場では、オスプレイの離着陸訓練が繰り返されていたからだ。現時点で訓練にオスプレイを使う計画はない。市は、防衛局と今後交わす覚書の確認事項に、訓練の使用機種を事前連絡するよう盛り込んだ。

 新たな単独訓練場所を確保した岩国基地の海兵隊。東広島市の陸自原村演習場でも、昨年度までに約40回の単独訓練をしている。中国地方では1984年から海自第1術科学校訓練施設(江田島市)、2007年から空自美保基地の美保飛行場(境港市)も訓練用に米側へ提供されている。

 自衛隊と米軍の平時からの一体運用と切れ目のない協力―。日本原での海兵隊の単独訓練は、15年に改定された日米防衛協力指針(ガイドライン)の「成果」と言える。単独訓練に反対する元津山市議の末永弘之さん(74)は「米側の都合で、訓練の場所や規模が拡大するのではないか。全国の自衛隊施設で日本原と同じようなことが起こる可能性がある」と指摘した。(久保田剛)

陸上自衛隊日本原演習場
 岡山県奈義町と津山市にまたがる中四国地方最大の演習場で、総面積約1450万平方メートル。1909年に旧陸軍が使用を始め、第2次世界大戦後は英国、オーストラリア軍などの駐留軍も使った。最寄りの陸自日本原駐屯地には火力戦闘を担う第13特科隊、対空戦闘の第13高射特科中隊などが置かれている。年間延べ約16万人の自衛隊員が訓練している。

(2018年6月5日朝刊掲載)

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