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社説・コラム

『潮流』 サウンド・オブ・フリーダム

■岩国総局長 小笠喜徳

 岩国市から高速道路経由で約2時間。中国山地に抱かれた広島県北広島町八幡地区はこの時期、ショウブやカキツバタが美しい。水田には青空と島根県境の山々が映り、牧草地では黒毛牛が草をはむ。

 心地よく響いていた鳥のさえずりを低いジェット音が覆い隠した。北からの小さな機影が頭上を越え、南東の山向こうで急降下して再上昇。同じルートでの飛行を2度繰り返した。米軍岩国基地の海兵隊機だ。

 「あんなのは静かなもの」。八幡に住んで30年という郵便局長の高木茂さん(63)は言う。前から米軍機は飛んでおり、南へ約5キロの聖湖(樽床ダム)付近での目撃が多かった。

 ところが昨秋以降、八幡での低空飛行が増えたという。特にパイロットの顔が見えるほどの低空進入から郵便局の目の前で急上昇する飛行が数回あり写真も撮った。「音はゴーじゃなくバリバリバリ。廃校舎を目標にした訓練では」と推測する。

 町八幡出張所では騒音が列車通過時のガード下並みの100デシベルを超える時も。岩国基地のそばでもめったにない数値で、八幡は瞬間的に岩国以上の騒音にさらされている。

 きのうは那覇市沖の海上に訓練中の嘉手納所属の米軍機が墜落した。そんなリスクも八幡は抱えている。

 米国では軍用機の騒音を「サウンド・オブ・フリーダム(自由の音)」と呼ぶことがあるそうだ。激しい騒音も自由な世界を守るため不可欠との解釈だ。岩国基地は1日、基地の役割などを市議に説明する「サウンド・オブ・フリーダム」活動と名付けた会合を初めて実施した。今後は市民などへ対象を広げるという。

 こうした説明に加え、交付金などの恩恵も受ける岩国に比べ、八幡の人々には米軍からも国からも詳しい説明はない。八幡だけではない。騒音やリスクと向き合う多くの地域で丁寧な説明と救済が求められる。

(2018年6月12日朝刊掲載)

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