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特定失踪者県家族会代表 河田さん 「せめて声だけでも」母訴え

下関や宇部 男女11人 拉致解決に望み託す

 12日にシンガポールで開かれた史上初の米朝首脳会談を受け、北朝鮮に拉致された疑いがある県内の特定失踪者の関係者が期待を寄せている。山口県の家族会代表の河田奈津江さん(75)=下関市=は長女君江さん=失踪当時(23)=との再会に望みを託す。突然の別離から28年。「せめて声だけでも聞きたい」と老いた母は訴える。(和多正憲)

 特定失踪者は、政府が認定した拉致被害者とは別に、民間団体「特定失踪者問題調査会」が独自調査しリストアップ。警察庁が「拉致の可能性が排除できない」とするリストとも多くが重複する。県内では下関市や宇部市の男女11人の名前が公開されている。

 君江さんはそのうち「拉致疑いが濃厚」とされる一人。会社員だった1990年2月7日、下関市内で退社後、1人暮らしのアパートに戻る途中に行方知れずとなった。約2週間後、島根県境の日本海沿いの駐車場で車が見つかった。

 車内には血の付いたカミソリ。運転席付近には泥があった。「娘は車に乗る時は靴を脱いでいた。おかしいと感じた」と奈津江さん。ただ、当時は拉致問題が認識されておらず、警察に公開捜査を求められなかった。

 同調査会が2008年、君江さんの拉致被害が「濃厚」と発表し状況は急変。特定失踪者として早期解決を願う署名活動も展開。16年には県内の家族会代表として県などに解決を要望した。

 奈津江さんはいつも財布に一枚の写真を入れ持ち歩く。自宅前で撮った20歳ごろの君江さんの姿。すり切れ、テープで継ぎ合わされた跡が会えない歳月の長さを物語る。

 「小さな前進でも私には大きな希望」。奈津江さんは米朝会談を前向きに受け止める。今月下旬には安倍晋三首相の地元でもある同市内の街頭で「次は日朝首脳会談の実現を」と訴えるつもりだ。

(2018年6月13日朝刊掲載)

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