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[ヒロシマは問う どうみる米朝首脳会談] 広島市立大国際学部教授 金栄鎬氏

非核化 対話の始まり評価

 北朝鮮の非核化と米国による安全の保証という太い方向性が、敵対してきた両国のトップにより確認された。初の首脳会談の開催自体が、米国が北朝鮮を主権国家として事実上承認したことになり歴史的。非核化の具体的工程が示されなかったのは残念だが、対話の始まりとして評価できる。

 この間の北朝鮮の「政策変化」をしっかり捕まえ、逆戻りさせないことが重要だ。北朝鮮国内でも、核開発と経済建設を同時に進める「並進路線」を修正し、経済に集中する新路線を打ち出している。核開発のリスクを経済制裁などの点から考えたのではないか。

 会談で、両首脳が感謝の言葉を交わしたのも驚くべき変化。非核化を巡る過去の合意は、相互の不信が前提だった。今回は会談前から米国が体制保証の用意を示し、北朝鮮は核実験場の廃棄などを実施。非核化と体制保証との取引を並行して進めるアプローチだ。非核化については、実現させる工程表や検証方法などを具体的に示すことができるかが今後を占う。

 北朝鮮の求める体制の保証は、戦争状態の朝鮮戦争を終える「平和協定」の締結を含む。北朝鮮が米国との国交正常化のためにも求めてきた。東アジア地域の各国は、非核化への単なる見返りではなく、共通利益と捉えて実現を目指すべきだ。朝鮮戦争以来の地域の対立構造が転換され、平和共存と安定につながる。

 4月の南北首脳会談の宣言も、米国、韓国、北朝鮮の3者か、さらに中国を加えた4者による平和協定締結の推進が入った。韓国世論の変化も注目される。協定は特に冷戦期、「在韓米軍撤収を招く」と警戒されたが、南北会談後の世論調査では8割近くが締結を支持した。

 今も韓国の国民の大部分が北朝鮮の体制を脅威と捉える一方、対話での解決を望む声が広がっている背景がある。国民の多くが描く「統一」も当面は北朝鮮と安定的に共存して経済や文化で交流し、ゆっくり進めるものだ。

 それだけに、日本は協定の当事国ではないにしても非核化や平和構築に向けて締結を側面から後押ししてほしい。また、北朝鮮は日本からの経済支援に前向きなはずで、国際協調に導く外交の糸口になる。北朝鮮との直接交渉も進めるべきだ。(水川恭輔)

キム・ヨンホ
 1961年、東京都生まれ。明治学院大大学院博士後期課程修了。広島市立大国際学部准教授を経て2012年から現職。専門は、現代朝鮮半島政治。在日韓国人3世。

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 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長による史上初の米朝首脳会談では、朝鮮半島の完全非核化が約束された。その具体的な工程はこれからだが、北東アジアの平和構築や核兵器廃絶の一歩になり得るのか。被爆者や被爆地の専門家たちに、会談の評価やポイントを聞いた。

(2018年6月17日朝刊掲載)

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