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連載・特集

[イワクニ 地域と米軍基地] 拓殖大海外事情研究所 川上高司所長に聞く

在韓撤退なら日本「最前線」

米中関係 戦略に影響

 米朝首脳会談後、トランプ米大統領が北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の「体制保証」の第一歩として米韓軍事演習中止を表明し、在韓米軍の将来的な撤収も示唆した。在日米軍、そして岩国基地(岩国市)にどんな影響が想定されるのか。米軍の海外展開戦略に詳しい川上高司・拓殖大海外事情研究所長(日米関係)に聞いた。(明知隼二)

  ―今後の米軍の海外展開をどう見ますか。
 朝鮮半島情勢の先行きは未知数だが、まずは緊張緩和の方向に向かっているようだ。トランプ氏はこれまでも、駐留経費への不満から在韓米軍の削減に言及してきた。仮に休戦状態だった朝鮮戦争が終結すれば、米軍が撤退する可能性は否定できない。そうなれば、改めて世界レベルでの米軍再編が進む。

 いずれにしても米朝の駆け引きは始まったばかり。会談で署名した共同声明の実現を巡り、あと2、3回はヤマ場があるだろう。

  ―在韓米軍が撤退した場合、在日米軍に与える影響は。
 東アジアでの米軍の海外展開において、日本が「最前線」に繰り上がる。東アジアで有事が起きた際、在日米軍と自衛隊の役割が高まるのは確実だ。両者による基地の共同使用が進むなど、米軍と自衛隊の一体化がさらに深まる。沖縄とともに岩国の存在感は増す。

 ただ空母艦載機の移転で極東最大級の航空基地になった岩国は、海兵隊と海軍、海上自衛隊で既にいっぱいの状態。戦力や人員の面で大幅な増強は考えにくい。

  ―北朝鮮の脅威がなくなれば、在日米軍の存在意義が薄れるのでは。
 そうはならない。日本は政治的に安定し、地理的にも中国や台湾、東南アジアを見渡せる位置にある。米国にとっては西の守りを担う前方展開の「空母」のようなもので、手放すことは考えにくい。

  ―日本政府はどう対応すべきでしょうか。
 注目すべきは米中関係だ。中国は、15年後には通常兵器の戦力で米国を上回るとされている。さらに朝鮮半島の緊張が緩和した場合、半島で米中のどちらが力を持つかという問題が重なる。覇権を狙う中国と、それを抑えたい米国。岩国基地を含む在日米軍の在り方は、日本不在のまま米中の戦略に左右される。それらを踏まえ、日本政府は防衛戦略を見直さねばならない。

かわかみ・たかし
 1955年、熊本県生まれ。大阪大で博士号取得。防衛庁防衛研究所主任研究官、北陸大教授などを経て、2013年から現職。著書に「米軍の前方展開と日米同盟」など。

(2018年6月17日朝刊掲載)

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