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外壁使用を被爆者歓迎 アンデルセン建て替え 「保存技術議論を」

 被爆外壁を一部使った広島アンデルセン(広島市中区)の建て替え計画の概要が分かった18日、被爆者や被爆建物の活用を求める団体からは歓迎の声が上がった。被爆の実態を今に伝える証人として被爆建物の役割が注目される一方、老朽化でその数は減少。専門家は新たな残し方の事例を増やすことも指摘している。

 アンデルセンのある本通り商店街に住み、原爆で家族6人を亡くした被爆者の奥本博さん(87)は「一時はなくなるかもしれないと思っていた。外壁を残して建て替えるのは大歓迎」と喜んだ。「被爆の時の様子が忘れられない。天井が崩れ、玄関前の防火用水に落ちて亡くなっている人もいた。子どものころ、海水浴場へ行く時の集合場所はいつもあの建物の前だった。いろいろな思い出のある建物を残そうとしてくれたことがうれしい」と語った。

 被爆建物の保存と活用を求める団体「旧被服支廠(ししょう)の保全を願う懇談会」事務局の内藤達郎さん(76)は「どんな被爆建物でも、活用されないと維持し続けるのは難しい。建て替え後は多くの人が訪れ、被爆体験を継承する場になれば」と期待する。

 広島市によると現在、市内で85件が被爆建物として登録され、このうち民間の所有は64件。ただ、老朽化による取り壊しなどが進み、最多だった1996年度の98件から13件減った。市は93年度から民間を対象に保存工事費を助成する制度を設け、2016年度からは木造で3千万、非木造で8千万円を上限に拡充した。

 市民団体「原爆遺跡保存運動懇談会」の世話人で「広島諸事・地域再生研究所」の石丸紀興代表(77)は「現在の法律や財政面などを考えて最大限努力した結果だろう。市民として敬意を表したい」と評価。「この選択に至った経緯やノウハウを社会に還元してもらいたい。被爆建物が減少する中、残すための新たな技術体系を社会や行政が議論するステップにしてほしい」と指摘している。(野田華奈子、永山啓一)

(2018年6月19日朝刊掲載)

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