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社説・コラム

『潮流』 「被爆前」を撮る

■ヒロシマ平和メディアセンター長 岩崎誠

 広島市の本川西岸で行われたロケの様子を、遠巻きにして見た。TBSが制作中の連続テレビドラマ「この世界の片隅に」。アニメ映画が大ヒットした、こうの史代さんの漫画のドラマ化である。

 戦時下に広島から呉に嫁ぐヒロイン「すず」役は、3千人からオーディションで選ばれた松本穂香さん。広島ロケでは古くからの雁木(がんぎ)の一つで撮影に臨んだ。今の原爆ドーム、被爆前の広島県産業奨励館を川の対岸からスケッチするシーンか。実際のドームは平和記念公園の反対側。昔の雰囲気をかろうじて残す場所の映像に、CGなどを交えて合成するのだろう。

 逆にいえば、壊滅した広島の在りし日の街を実写で撮るのは簡単ではない。考えてみれば当たり前のことだ。かつて原爆を描いた映画やドラマも、竹原市の町並み保存地区などでロケをしたり、セットで撮影したりしてきた。

 25年余り前、被爆地で浮上したプロジェクトを思い出した。広島市が比治山公園に建設しようとした博物館に、爆心地・中島本町の戦前の街並みを原寸大でそっくり復元する構想があった。東西60メートル、南北40メートルという範囲で―。

 しかし比治山の再整備の遅れや財政難などで、博物館計画が宙に浮く。それはそれで仕方なかったにせよ、仮に実現していれば、とも思う。映画などの撮影では重宝していたはずだ。そういえばアニメ版「この世界」の中では、にぎわう中島本町の目抜き通りを幼い「すず」が歩く場面が心に残った。

 精巧なCG映像に加え、過去の歴史をバーチャルリアリティーの手法で体験する技術は花盛りだ。一方で江戸時代にオランダ人が暮らした長崎市の出島のように、実物大の姿を復元する動きも各地にある。原爆で失われた街の重みを若い世代にどう実感してもらうか。決して映画人や放送人だけの仕事ではない。

(2018年6月21日朝刊掲載)

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