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社説・コラム

天風録 『岩国基地の音』

 人間さまの勝手ではあるが、空から降ってくる物音には「善(よ)し悪(わる)し」がある。この時季であれば庭木の葉をなで地面をぬらすくらいの雨音なら安らぎも感じよう。これが屋根をたたくようなら、もういけない▲「雨あられ」は鉄砲の弾が飛び交う様子の例えだが、ジェット戦闘機の爆音は時に大気をつんざく。米軍岩国基地の周辺に住む市民同士が顔を合わせれば「最近、うるそうなったね」との声が漏れる。ことし3月までに60機増えてから顕著になった▲突然響き渡るごう音は今や、芸北地方など中国山地でもひどくなっている。背景にあるのはパイロットの顔が見えるくらい低く飛ぶ訓練だ。苦情が増えるほどだから、目撃が相次いでいるのも当然かもしれない▲戦闘機は朝鮮戦争やベトナム戦争の頃も飛び交っていた。騒音のひどさに当時を思い起こす人がいるのではないか。爆音は「世界の平和と自由を保つための音」と捉える向きも米国にはある。にわかには信じられない▲暮らしの中の音は、子どもにとっては古里の思い出を形作る大切なよすがである。雷鳴に似た「悪し」でなく、心を落ち着かせる「善し」を数多く聞かせられるか。大人が試されている。

(2018年6月22日朝刊掲載)

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