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イワクニ 地域と米軍基地 移転の先 <3> 声反映する仕組み必要

地位協定 権限弱い日本

 米軍の輸送機やヘリコプターが頭上を飛び交っていた。今月上旬、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に隣接する普天間第二小近くを半年ぶりに訪ねた。昨年12月、校庭に米軍ヘリから重さ約7・7キロの窓が落下した事故当日、現地を取材した。沖縄の空は変わっていなかった。

 校庭には変化があった。防衛省沖縄防衛局の監視員5人が常駐し、ヘリが接近するたび拡声器で児童に避難を呼び掛けていた。市教委によると、避難は8日までに計527回。1日で23回も避難した日があった。

 「日米地位協定に、米軍の訓練を規制できる日本側の権限が明文化されていない。深刻な事故が起きても住民を守れない」。沖縄県基地対策課の山口直也主査は憤った。

 「基地が私たちの地域にある以上、そこで何が起きているかを知る権利があるのは当たり前だ」。欧州最大級の米空軍基地があるドイツのラムシュタイン・ミーゼンバハ市で会ったラルフ・ヘヒラー市長の言葉との落差をかみしめた。市長は、いつでも同基地に立ち入る権限を持っていた。

 在日米軍の法的地位を定める地位協定では、日本の国内法は米軍に原則適用されない。しかし、取材で訪れた欧州では違っていた。北大西洋条約機構(NATO)軍として米軍が駐留するドイツ、イタリアは駐留米軍に国内法を適用していた。

 ドイツでは米軍機に自国の航空法を適用し、夜間早朝の飛行を制限する。イタリアは、軍司令官の管理下に米軍基地を置いていた。両国には、地元自治体の苦情などを反映させるため米軍を加えた委員会もあった。米側と交渉し、協定を改定したり新たな取り決めを結んだりして自国の権限を強めた結果だった。

 日米地位協定は1960年の発効後、一度も改定されていない。外務省日米地位協定室は「課題が生じればその都度、適切な方法で対応している」。確かに補足協定の締結などで運用の改善を図っている。それでも、ドイツ、イタリアに比べて日本の権限の弱さが目立つ。

 米軍岩国基地(岩国市)も地位協定の弊害から免れない。中国新聞の取材で2014年度以降、他の在日米軍施設とともに、国の立ち入り環境調査が中止されていたことが分かった。

 地位協定では日本側に環境調査を認める規定がない。高濃度の有毒物質による土壌や水質の汚染といった環境事故が発生しても、米側の許可がなければ調査できない。15年に締結した補足協定で環境事故が起きた場合、米側は日本側に「妥当な考慮」を払うことになったが、調査の実施は確約されていない。

 米軍が絡む事件事故や環境問題が起きれば、最も影響を受けるのは基地を抱える地域である。それなのに現行の地位協定には地域の存在が希薄だ。米軍を交え、地域の声を吸い上げる協議機関を設置することを協定で定めるべきだ。ヘヒラー市長が言う「当たり前」を実施することこそが、地域の安全安心を担保する一歩になる。(明知隼二)

日米地位協定
 日米安全保障条約に基づき、在日米軍の法的地位や基地の管理、運用を定めた協定。米軍人や軍属が起こした公務中の事件事故については、米側に優先的な裁判権があると規定。公務外でも米側が先に容疑者を拘束した場合、身柄は原則として起訴まで日本側に引き渡さない。関連する合意文書では、基地の外でも日本が米軍財産の捜索や差し押さえの権利を行使しないことなども定める。協定の運用改善は、国と在日米軍司令部などでつくる「日米合同委員会」で協議しているが、協定自体は1960年の発効後、一度も改定されていない。

(2018年6月23日朝刊掲載

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