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イワクニ 地域と米軍基地 移転の先 <4> 被害の全容 把握急げ

県境またぎ騒音拡大

 今月中旬、廿日市市阿品台の団地を訪ねた。米軍岩国基地(岩国市)から北東に約20キロ。「テレビの音が聞こえない」「しょっちゅう騒音が聞こえる」。通りで立ち話をしていた主婦たちが不満を漏らした。その時、米軍機1機が頭上を通過した。「基地の町になったみたい」。1人がつぶやいた。

 阿品台だけではない。世界遺産の島・宮島(廿日市市)、米軍機のルート直下にある大竹市の離島、阿多田島…。岩国基地への空母艦載機の移転完了後、騒音は県境を越えて広がった。

 米軍の訓練空域「エリア567」が上空に広がる西中国山地でも、住民は変化を感じ取っている。「パイロットの顔が見えるほどの低空飛行が増えた」「ほぼ毎日、飛行音が聞こえる」。米軍機の目撃情報が広島県内で最も多い北広島町の住民は証言する。

 同町八幡出張所の騒音測定器は、100デシベル超を記録することもある。電車通過時のガード下に相当し、岩国基地のそばでもめったにない数値だ。

 西中国山地で訓練している米軍機の多くは、岩国基地の海兵隊機だ。北朝鮮情勢が緊迫化した昨秋、騒音回数が増えた。日米で合意した低空飛行訓練の高度規制が守られているかどうか、住民に確認するすべはない。順守されていても爆音や事故のリスクと隣り合わせの暮らしが続く。

 艦載機の訓練が増える可能性もある。移転前の厚木基地(神奈川県)所属時、群馬県で低空飛行訓練を繰り返していた。5月、同町上空で訓練とみられる飛行をしている艦載機を、中国新聞のカメラマンが初めて確認し、機体を撮影した。

 岩国市と周辺市町は国から交付金を受け取っている。しかし、艦載機移転を機に騒音が悪化したそれ以外のエリアや、訓練空域のかかる山あいの町に「恩恵」はない。

 中国地方知事会は5月、米軍の訓練空域のある自治体に「必要な措置」を講じるよう国に求める共同アピールを採択した。ただ、低空飛行訓練に悩む広島、島根両県はスタンスが違った。広島県は交付金制度の新設を求めるが、島根県は財源措置とは距離を置く。訓練を容認したと受け取られるとの懸念からだ。

 西中国山地での低空飛行訓練は1990年代に本格化した。住民や自治体が米軍と国に訴え続けてもなくならない。日米同盟を盾に、米軍が訴えを受け付けないのが実態だ。

 しかし、艦載機移転を機に負担が増しながら、十分な対策が講じられていない地域が生じている。今後、米軍機の訓練が増える可能性がある地域もある。

 国が、騒音軽減への配慮や低空飛行訓練の中止を米軍に強く求めるのは当然だ。財源措置も現実的な対策の一つだろう。それらの前提として、騒音や低空飛行訓練に関するより詳細なデータ収集が必要だ。

 国や自治体は、岩国基地関連の騒音を広島、山口、島根の3県の計60カ所で測定している。監視のネットワークを広げ、密にしなければならない。低空飛行訓練の目撃情報が多い場所では、検証のための監視カメラを設置すべきだ。基地負担の全容を把握し、住民に不安を抱かせる訓練の抑制につなげなければならない。(久保田剛)

在日米軍の低空飛行訓練
 敵地でレーダーに捕捉されないよう低高度で山間地などを飛ぶ訓練。日米地位協定に基づき、米軍は航空法上の規制などの適用を除外されている。各地で反対運動が起き、日本政府と米軍は1999年、「訓練は日本の航空法と同じ高度規制(人口密集地300メートル、その他150メートル)を適用」「学校や病院などの建物に妥当な考慮を払う」などの日米合意を結んだ。だが、現在も訓練に対する住民の苦情が各地で相次いでいる。

(2018年6月24日朝刊掲載)

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