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社説・コラム

天風録 『「万国津梁」の精神』

 隣り合う参列者が、しばし大きく目を見開いていた。驚きとも、いたわりとも取れる。視線の先にあるのは、翁長雄志(おなが・たけし)知事の姿だった。きのう沖縄の「慰霊の日」で平和宣言を読み上げた。最近は手放さない帽子を脱いで▲12年前に胃の全摘手術を受け、さらにこの5月には膵(すい)がんを公表した。治療中とあって、より細くなったその身も、帽子の下も痛々しい。だが辺野古に新基地を造らせない決意が揺らぐことはない―という表明に多くの県民がうなずいたことだろう▲宣言には「万国津梁(しんりょう)」の4文字を用いた。津梁は懸け橋の意。沖縄はアジアとの平和の懸け橋であって、戦いの橋頭堡(ほ)にはならぬ。その含みもあるに違いない▲「龍及国」の名が中世の古地図にある。広島県立歴史博物館が7月に公開する「日本扶桑国之図(ふそうこくのず)」。「りゅうきゅう」と読むと知る。日本とアジアの境にあって、交易を通じて栄えた万国津梁の王国だったと想像する▲きのうは安倍晋三首相も万国津梁を例えに出し、沖縄が日本の発展をけん引する―と持ち上げた。だが、そのためにも基地の整理・縮小は進めなければならないはず。大きく目を見開いた人がいたかどうかは、分からない。

(2018年6月24日朝刊掲載)

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