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イワクニ 地域と米軍基地 移転の先 <6> 厚木の土地返還 本腰を

相次ぐ飛来 2拠点化懸念

 5月21日、米軍厚木基地(神奈川県綾瀬市、大和市)にFA18スーパーホーネット戦闘攻撃機10機が次々と舞い降りた。その数時間前、岩国基地(岩国市)を飛び立った空母艦載機だった。しばらくとどまり、そろって飛び立った。

 東京・小笠原諸島の硫黄島での陸上空母離着陸訓練(FCLP)が終盤を迎えていた時期。「島に行く前に中継点として寄ったのではないか」と、米軍機の監視を続ける住民団体「厚木基地を考える会」代表の矢野亮さん(66)。この10日前にも艦載機3機が着陸した。

 艦載機約60機は3月末、厚木から岩国への移転を終えた。しかし、その後も厚木への飛来が相次いでいる。

 在日米軍再編に伴う移転は、厚木基地周辺の騒音被害の軽減が大きな狙いだった。移転後、確かに騒音は減った。綾瀬市によると、基地南側の4月の騒音測定回数は969回。前年同月(1461回)の3分の2になった。ただ移転開始前の昨年7月の岩国市(235回、基地北側の川口町)と比べると、騒音のレベルはいまだに高い。

 米軍は、移転後の厚木の運用について「訓練や給油のため、今後も折に触れて使う」と説明してきた。「厚木は結局、便利な基地として使われ続けている」と矢野さんは批判する。FCLPでも、硫黄島が悪天候などで使えない場合の予備施設に指定された。艦載機の拠点基地が岩国と厚木の2カ所になるのではないか―。地元では、移転前からあった疑念は消えない。

 厚木基地の土地の部分返還について、米側や日本政府から両市に打診がないことも疑念を深める要因だ。日米地位協定では、必要のなくなった土地や施設は日本側に返すとし、その必要性を「たえず検討する」と規定する。今回、艦載機移転で厚木の基地機能は大きく縮小した。しかし、日米両政府が検討している様子はうかがえない。

 厚木基地は旧日本軍が整備し、終戦後に米軍が接収した。米空母ミッドウェーが1973年、横須賀基地(神奈川県横須賀市)を事実上、母港にしてから、米国本土以外に展開する唯一の艦載機部隊の拠点になった。

 厚木基地は、綾瀬市の市域の18%、大和市の4%を占める。基地の存在は国からの交付金などで市財政を潤した一方、交通や産業政策への障壁でもあった。ただ今後、基地負担の軽減で交付金が減額される可能性がある。綾瀬市はこれまで、基地内で遊休化したピクニックエリア・ゴルフ場地区など計約50ヘクタールの返還を国に要請してきた。まちづくりに生かすため返還を求める声を強めている。

 厚木が艦載機のもう一つの拠点として扱われれば本末転倒だ。在日米軍再編計画自体に疑問が生じかねない。移転を容認した岩国の決断も軽んじることになる。主力部隊が抜けた今後の厚木の運用について、米軍は明確に示すべきだ。日本政府も米側との土地返還交渉に本腰で取り組み、地元の疑念を拭い去る必要がある。(久保田剛)

厚木基地
 神奈川県綾瀬、大和両市にまたがる日米共同使用の航空基地。総面積約500ヘクタール。長さ約2400メートルの滑走路1本がある。1941年、旧日本海軍が建設し、終戦後、米軍が接収した。71年から海上自衛隊が共同使用を始めた。周辺は住宅密集地で騒音問題が深刻化し、住民が損害賠償などを求める訴訟を繰り返してきた。今年3月末までに空母艦載機約60機が岩国基地(岩国市)に移転。現在は米軍のヘリ部隊が残っているほか、海自のP1哨戒機運用部隊などが配備されている。

(2018年6月26日朝刊掲載)

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