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「核兵器全廃」約束せよ 広島から平和アピール ローマ法王、慰霊碑に祈る

被爆の惨状に涙 市長ら2万5千人歓迎 平和記念公園

 戦争は人間のしわざです。戦争は人間の生命を破壊します。戦争は死そのものです-。小雪がちらつくはだ寒いヒロシマから全世界に向けて「永遠の平和」を求めるアピールが響いた。来日中のローマ法王ヨハネ・パウロ二世は25日朝、平和の巡礼者として初めて人類最初の被爆地広島の大地を踏んだ。約20万人の原爆犠牲者が眠る広島市中区中島町、平和記念公園内の原爆慰霊碑前で、2万5千人(広島県警調べ)の市民、カトリック教信徒が見守る中、深い祈りをささげたローマ法王は、被爆の惨状に涙を浮かべた。全世界へ向けての注目の平和アピールは、最初と結びの日本語を含む9カ国語で約30分間にわたって「あの悲劇の日以来、核兵器は増え、破壊力も増大している」と人類滅亡の危機を訴え、平和のために人間の英知を結集しようと力強く呼びかけた。アピールは世界に訴える内容にふさわしく、日、英、仏、スペイン、ポルトガル、ポーランド、中国、ドイツ、ロシアの9カ国語の順に切り替えながら発表された。

 同日午前10時10分すぎ、ローマ法王を乗せた全日空特別機は同市西区観音新町四丁目の広島空港へ滑り込んだ。この朝の最低気温は氷点下0.2度、小雪が舞う空港には野口由松広島教区司教、宮沢知事、荒木広島市長らが出迎えた。信徒代表の少年、少女から花束を受けたローマ法王は平和記念公園に直行した。

 同公園に着いた白い法衣のローマ法王は、慰霊碑への参道中央で同市西区三滝寺に安置されているアウシュビッツの犠牲者の遺骨を持って迎えた市民の前に立ち止まり、早くもハプニングの多い法王の一面をのぞかせた。白い菊とランの花束を“殉教者”にささげたローマ法王は約1分間、大地にひざまずいて静かに祈った。案内役の荒木市長から被爆の惨状の説明を受けたローマ法王は、憂いに満ちた表情で質問を続け、説明に涙を浮かべるシーンも見られた。

 同市主催の歓迎の集いで、まず荒木市長が「被爆の地にお立ちになり、全世界に向けて平和アピールをされることは意義深く、心から歓迎します」とあいさつ。午前10時54分「戦争は…」で始まる平和アピールを日本語で読み始めた。低く抑えたような調子だがよく通る声、特訓の成果をしのばせる日本語は、その力強さもあって、会場の市民、信徒の心を強く打った。具体的には「世界の国々で平和を維持する法制定」を提案。それぞれの立場の人の平和への努力の役割を強調した。時には叫び、ときには語りかけるようにアピールを続け、最後に再び日本語で「神よ私の声を聞いて下さい。あなたの終わりなき平和をお与え下さい」と祈りの言葉で締めくくった。

 ローマ法王は午後から同公園内の原爆資料館で初めて生の被爆資料650点に接し、市公会堂で「技術・社会そして平和」と題して特別記念公演するなど予定のスケジュールを精力的にこなした。さらにローマ法王は同市中区幟町の平和記念聖堂でカトリック信徒約4,500人に祝福を与え、広島滞在6時間後の午後4時、次の訪問地長崎へ向かった。

(1981年2月25日朝刊掲載)

“ヒロシマの悲劇”いま直視 法王 被爆資料に大きな衝撃 絶句、悲痛な表情

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