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中沢啓治さん死去 「はだしのゲン」作者 73歳

 原爆投下後の広島を生きる少年を描いた「はだしのゲン」で知られる漫画家の中沢啓治(なかざわ・けいじ)氏が19日午後2時10分、肺がんのため広島市中区の広島市民病院で死去したことが25日、分かった。73歳。広島市中区出身。自宅は広島市中区三川町3の13の601。葬儀は近親者で21日に済ませた。喪主は妻ミサヨさん。

 現在の中区舟入本町で生まれた。6歳の時に爆心地から約1・2キロの神崎国民学校に登校する途中、校門付近で被爆。自宅の下敷きになった父、姉、弟を亡くした。生まれたばかりの妹も戦後混乱期の栄養失調で失った。

 漫画家を目指し1961年、21歳で上京。デビュー後の66年、母の死に際し火葬場で、もろく粉々になった遺骨に「ピカは母の骨まで奪うのか」と、原爆と投下した米国への怒りが湧き、作品を通し原爆や戦争の悲惨さを訴えることを決意。直後に「黒い雨にうたれて」を描き上げた。

 73年、週刊少年ジャンプに被爆者としての自伝的作品「はだしのゲン」の連載を開始。中断を経ながらもコミック10巻分を描いた。被爆後の広島でたくましく成長する主人公の少年ゲンの姿は共感を呼び、英語やロシア語など約20カ国語に翻訳された。広島市教委は本年度、平和教育で使う教材に採用した。

 晩年は白内障による視力低下などに苦しみ、2009年に執筆活動を断念。10年の肺がん手術などを機に拠点を埼玉県所沢市から広島市に移し、闘病の傍ら小学校などでの証言活動に精力を注いだ。(田中美千子)

(2012年12月26日朝刊掲載)

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