×

社説・コラム

社説 ビキニ訴訟で請求棄却 それでも国は救済急げ

 長きにわたり顧みられなかった核被害者の救済をいつまで放置し続けるのか。米国による1954年の太平洋・ビキニ環礁での水爆実験で、周辺海域にいた漁船の元船員や遺族ら45人が日本政府に国家賠償を求めた訴訟の判決で、高知地裁は原告の訴えを全面的に退けた。

 「解決済みの問題」との姿勢を貫く国の主張に沿った判決だ。被曝(ひばく)による被害自体が「なかった」ことにされかねない。到底承服できない。

 ビキニ水爆実験で被害を受けたのは、静岡県の第五福竜丸だけではない。この時期に周辺海域で操業していた日本漁船は約千隻に上る。「死の灰」は広範囲に降り注ぎ、汚染された魚の廃棄を余儀なくされた。

 今回の訴訟では、それらの漁船の被害に関する調査結果を、日本政府が長年隠して開示しなかったため、米国への賠償請求の機会を奪われたとして、元船員1人当たり200万円の慰謝料を求めていた。

 当時、「死の灰」を浴びた第五福竜丸は日本中に大きな衝撃を与えた。無線長が死亡し、原水爆禁止運動のうねりを起こした。だが、問題は間もなく埋没してしまう。その背景に反米、反核感情を抑える「政治決着」があったのは間違いない。

 日本政府は、米国の法的責任を問わないまま「見舞金」として200万ドル(当時で7億2千万円)を受け取り、幕引きを図った。第五福竜丸元乗組員の継続調査以外は封印し、他の漁船の船員らの被害は放置した。

 漁船や船員の被曝線量に関する検査資料も「見つからない」と言い続けていたが、元船員を支援する市民団体が粘り強く請求した結果、2014年になって延べ556隻分の資料公開にようやく応じた。12隻に一定量の被曝が認められた。水爆実験から60年たっていた。あまりにも遅過ぎて不誠実だ。原告らが「意図的に隠していた」と非難するのも無理はなかろう。

 地裁はきのうの判決で「元乗組員のうち1人を除いて被曝した事実は認められる」としながらも「国が資料を意図的に隠したとは断言できない」との判断を示した。さらに「国家賠償を請求できる20年の期間も超え、救済は困難」と結論付けた。

 原告らが求めていたのは国の責任を明らかにし、第五福竜丸以外の被害者の救済を実現することだ。国がなぜ長年にわたり情報開示しなかったのかさえ分からないままでは、到底納得できまい。

 被曝の事実があっても病気との因果関係を立証するのは難しい。裁判と並行して、原告の元船員ら11人は「労災認定」に当たる船員保険の適用を求めて集団申請していたが、昨年末に全国保険協会から不承認とされた。健康に影響が出るほどの被曝は確認できないとの理由だ。

 ただ元船員への直接の聞き取りはなかったという。元船員らが訴える被害の実態をしっかり踏まえた判断とは言い難い。

 周辺海域で被曝した元船員は全国に埋もれている可能性が高い。水爆実験から60年以上が過ぎ、いずれも高齢だ。被曝の事実を知らずに亡くなった人も多いはずだ。国は長く被害実態の把握を怠り追跡調査さえしなかった。その「不作為」の責任は重い。司法判断とは別に、一刻も早く救済に乗り出すべきだ。

(2018年7月21日朝刊掲載)

年別アーカイブ