×

3.11とヒロシマ

[グレーゾーン 低線量被曝の影響] 部署超え共同研究 放影研 発がんなど3領域

 被爆者や被爆2世の健康影響を調査している放射線影響研究所(放影研、広島市南区)は本年度、従来の部署の枠組みを超えて研究課題に取り組む「研究クラスター制」を導入する。疫学や生物学など異なる専門分野の研究員が、三つの研究領域の中でプロジェクトチームを結成。低線量被曝(ひばく)の健康影響など解明が困難なテーマに挑む。

 研究クラスターは、発がん▽循環器疾患・非がん疾患▽遺伝―で構成する。臨床研究部や統計部など全5部署に所属する研究員約40人が、いずれかのクラスターに参加。メンバー同士でアイデアを出し合って課題を決め、チームで研究を進める。人件費などを除く研究費も、今後は部単位ではなく、クラスターごとに配分する。

 東京電力福島第1原発事故がもたらした低線量被曝は、今なお住民の一部を中心に不安が根強い。特に国際的な評価が定まっていない100ミリシーベルト以下の健康影響の有無を巡っては、専門家の間でも議論が二分されている。

 放影研は、前身の原爆傷害調査委員会(ABCC)時代から蓄積した被爆者の疫学調査を基に、放射線の人体影響を少しずつ解き明かしてきた。一方で、線量が低いほど疫学に頼った解析には限界があった。専門分野を横断するクラスター制での新たな発想が、今後の研究の鍵を握る。

 また、放影研では近年、共同出資する日米両政府からの運営費削減や、研究者の高齢化が課題だった。クラスター制の導入は、限られた資金や人材を効果的に活用する狙いもある。(藤村潤平)

(2016年5月23日朝刊掲載)

年別アーカイブ