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社説・コラム

教皇の被爆地訪問に力 カトリック広島教区前教区長 前田万葉 新枢機卿に聞く

ぜひ広島から平和発信

 カトリック広島教区の前教区長である前田万葉・大阪教区大司教(69)が、ローマ教皇(法王)フランシスコに次ぐ高位聖職者となる枢機卿に就いた。枢機卿は世界に約230人いるが、日本人が務めるのは9年ぶり。長崎県出身で被爆2世の前田枢機卿は中国新聞のインタビューに、1981年のヨハネ・パウロ2世以来となる教皇の被爆地訪問の実現に尽力すると強調した。(久行大輝)

  ―枢機卿に就任して1カ月。どんな活動に力を入れますか。
 まずは今月上旬に発生した西日本豪雨の被災者にお見舞いを申し上げ、一日も早い復興と平安を祈っている。教皇からもお見舞いと励ましの手紙が届いている。

 枢機卿はバチカンとのパイプ役であり、日本の社会情勢を伝えていく役割がある。教皇は長年、貧困や病気の人たちに寄り添い、現場主義を貫いている。その意向に沿って、私も弱い立場の人たちに奉仕していく。

超宗派の土壌

  ―以前から教皇の広島訪問を働き掛けてこられました。教皇が被爆地を訪れる意義は何ですか。
 教皇に対しては、被爆地である広島、長崎と東日本大震災の被災地を訪問していただけるよう全力を尽くす。枢機卿の叙任式で教皇に訪問を要請したところ、前向きな返答があった。

 教皇が81年に広島で発した平和アピールは今もなお強いメッセージ性を持っている。私も広島の教区長を経験して、世界の人たちが広島に向ける思いと広島からの発信力を実感した。教皇の広島訪問が、平和実現へのより確かな歩みとなることを確信している。

  ―広島教区長時代には、宗派を超えた核廃絶の取り組みに力を注がれました。
 宗教対立が戦争の火種になることも多く、宗教者の連帯は不可欠だ。神道や仏教、キリスト教の各宗派でつくる広島県宗教連盟の理事長も経験し連携に力を入れた。もともと広島は全国的に見ても超宗派の交流が盛んな地。被爆地の宗教者として、平和を訴える気持ちが共通の素地になっているのではないかと思う。

 4年前に亡くなった私の母は長崎で被爆している。被爆2世として、母の経験を含めて平和や命の大切さを多くの人たちに語っていきたい。

先祖の志継承

  ―弾圧の歴史に焦点を当てた「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が6月、世界文化遺産に登録されました。長崎出身者としてどう受け止めますか。
 明治初期、私の曽祖父たちは潜伏キリシタンとして迫害を受け、曽祖父の妹3人が殉教した。今回の登録で、信仰を守るため命を懸けた先祖の思いを引き継ぐ決意を強くした。

 中国地方にも、幕末から明治初期にかけてキリシタンが迫害された「浦上四番崩れ」の流配地が点在している。殉教者たちの信仰を巡る精神を改めて学ぶことで、命の尊厳や人権、信教の自由を考える機運を盛り上げたい。

まえだ・まんよう
 1949年長崎県新上五島町生まれ。75年サン・スルピス大神学院を卒業。カトリック中央協議会事務局長を経て2011年から広島教区司教。14年から大阪教区大司教。18年6月28日、枢機卿に就任した。日本人の枢機卿は6人目。80歳未満の枢機卿は教皇選挙(コンクラーベ)の投票権を持つ。

(2018年7月30日朝刊掲載)

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