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社説・コラム

『私の学び』 NPO法人シードオブピース代表 道田涼子さん

核廃絶の願い 歌に乗せ

 2008年に被爆者の体験を歌や朗読劇にして伝えるNPO法人「シードオブピース」を立ち上げて10年。今年5月、カザフスタン政府に招かれた。旧ソ連が核実験を繰り返したセミパラチンスクがある地だ。

 〽哀れなるわが大地 数え切れぬ 爆発 閃光(せんこう)に 引き裂かれたわが心よ…。

 実験反対運動の象徴の歌「ザマナイ」を現地で日本語で歌った。哀愁を帯びた旋律は、被曝(ひばく)者や古里を追われた人々の悲しみを表現している。

 観客から大きな拍手をもらい、うれしかった。カザフ同様、核被害を受けた広島から来た私の歌声が現地の人の心に届いたのだと思う。国境を越えて訴え掛ける歌の力をあらためて感じた。

 この10年間、8月6日の前後に広島市内で平和コンサートを開いてきた。母の知人から頻繁に被爆証言を聞いていたことや、夫の祖父が広島県産業奨励館(現原爆ドーム)で働いていた被爆者と知ったことが活動の原点だ。

 「ザマナイ」との出合いも、カザフの被曝者支援に取り組む市民団体「ヒロシマ・セミパラチンスク・プロジェクト」のメンバーと知り合ったことがきっかけ。つい30年前までカザフでも広島同様の悲劇があり、深刻な健康被害が現在まで続いていることに衝撃を受けた。

 小さい頃から歌うことが大好きで、97年に劇団四季に入団。「ライオンキング」や「エビータ」などのミュージカルに出演してきた。一方で、心を寄せてきたのが四季オリジナルの「平和3部作」だ。山口淑子の半生を描いた「李香蘭」、シベリア抑留をテーマにした「異国の丘」、インドネシアで戦いBC級戦犯として処刑された青年を主人公とした「南十字星」。

 広島に生まれた人間として、3部作への出演は目標だった。希望はかなわなかったが、結婚を機に帰った古里で自分なりに音楽で平和を発信する道を見つけた。その先に「ザマナイ」があった。

 広島の被爆者とカザフの被曝者の祈りは同じ。悲劇を忘れず、核のない世界を手繰り寄せたい―。この思いを継ぎ、歌声を響かせていきたい。(聞き手は栾暁雨)

みちだ・りょうこ
 1975年、広島市安佐北区生まれ。沼田高で演劇部に入り、劇団四季の広島公演を見てミュージカルの世界に憧れる。広島文化女子短大を経て、昭和音楽芸術学院(現昭和音大)ミュージカル科卒。1997~2002年まで劇団四季に在籍した。

(2018年8月6日朝刊掲載)

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