×

連載・特集

安保と山口 <上> 地上イージス計画

見えぬ県の主体性

「保守王国」 曖昧に終始

 「安全保障上、山口は重要な役割を担う場所。感謝してもしきれない」。6月30日、宇部市で講演した小野寺五典防衛相は山口の「貢献」を大仰にたたえた。防衛省は同月1日、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の県内配備計画を公表していた。

「最適候補地」に

 国は萩市の陸上自衛隊むつみ演習場をアショア配備の「最適候補地」と選定。さらに山陽小野田市の海上自衛隊受信所跡地には宇宙監視レーダーを計画する。いずれも米軍と自衛隊の連携強化を示す最新施設だ。

 山口県で相次ぐ防衛施設の新計画―。村岡嗣政知事は「国の防衛政策は尊重する一方、県民の安心安全を確保する立場から言うべきは言う」と基本姿勢を述べる。念頭にあるのは地方自治法における国と地方の役割分担だ。同法では、国は「国家の存立に関わる事務」を担い、自治体は「住民の福祉の増進を図る」と規定する。

 山口県は、アショア配備を含め防衛政策について「基本的に協力する」との立場。国には住民の不安を払拭(ふっしょく)するよう求めるが、あくまで地元の意向を前面に掲げる。配備の是非について県の考えは見えてこない。

秋田は強く反発

 もう一つの配備候補地の秋田県と比べると、第三者的なスタンスは際立つ。

 「現段階ではノーだ」。7月23日、秋田県の佐竹敬久知事は防衛省の説明後、報道陣に言い切った。候補地が山間部の山口と比べ、住宅密集地に近い秋田は住民の反発が強い。「非常に不愉快」「デリカシーがない」。佐竹知事の口からは国への不満が相次ぐ。「防衛は国の専管事項」と述べる村岡知事とは対照的に映る。

 ほかにも両者の違いが浮かぶ場面は多い。国が山口、秋田両県に候補地を伝えた6月1日。両県庁での防衛政務官との面会時間について山口県は「40分」と事前説明したが、秋田県は制限を設けなかった。結果的に国は両県とも40分で切り上げ、佐竹知事は時間の短さを憤ったが、村岡知事からは言及がなかった。

 自民党山口県連の関係者は「総理のお膝元で反対するわけにいかない」と山口特有の事情を口にする。安倍晋三首相をはじめ8人の宰相を出し、衆参全議席を与党の自民が独占する「保守王国」。国へ異議を唱える世論は高まりにくい。

 地方自治と国防政策の関係に詳しい小林武・沖縄大客員教授(憲法学)は「自治体は住民への言い訳として国の専管事項という表現を使いがちだが、国と地方の役割分担に主従関係はない。安保は住民の暮らしに影響する。首長も積極的に意思表示をするべきだ」と指摘する。(和多正憲)

    ◇

 山口県が安全保障の「最前線」に立たされている。イージス・アショアや宇宙監視レーダーに加え、米軍岩国基地(岩国市)は極東最大級の航空基地へと変容した。一方、新たな計画が浮上するたび、賛否を巡り地元は割れる。国の「専管事項」とされる防衛政策に地方はどう向き合おうとしているのか。国策に揺れる山口のいまをみる。

イージス・アショア
 海上自衛隊のイージス艦と同様のレーダーやミサイル発射装置などで構成される地上配備型の弾道ミサイル迎撃システム。政府が2017年12月に国内2基の導入を閣議決定。23年度の運用開始を目指す。防衛省は18年6月、陸上自衛隊むつみ演習場(萩市)と陸自新屋演習場(秋田市)を「最適候補地」と公表した。

(2018年8月8日朝刊掲載)

安保と山口 <下> 空母艦載機受け入れ

年別アーカイブ