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連載・特集

安保と山口 <下> 空母艦載機受け入れ

国に協力 恩恵多大

予想超す騒音に戸惑い

 米軍機がごう音とともに飛び立つ米軍岩国基地(岩国市)。滑走路北端の西3キロに総ガラス張りのモダンな市庁舎が立つ。庁内では市歌の英語版が流れ、屋上からは基地管制塔を望む。

アメとムチ 象徴

 市は昨年6月、市政上で最大の懸案の一つとも言えた厚木基地(神奈川県)からの空母艦載機移転を容認した。同年8月から今年3月にかけて、約60機が岩国基地に順次移転。同基地は所属機が約120機に倍増し、極東最大級の航空基地に変貌した。

 市庁舎は在日米軍再編を巡る国の「アメとムチ」の象徴的な施設だ。前市長が艦載機移転に反対する中、防衛省は建設補助金35億円を凍結し、米軍再編交付金の対象からも外した。

 だが2008年2月。移転容認派が推した自民党前衆院議員の福田良彦氏が市長に初当選すると事態は一変。翌月には補助金の凍結解除と再編交付金の支給が約束され、同5月から新庁舎での業務が始まった。

 福田市政の誕生から10年。市は国防に理解を示し、米軍との協調は深度を増す。「基地との共存」―。14年に策定した市総合計画(15~22年度)に初めて盛り込んだ概念は、その道筋をより鮮明にした。

 国防への協力姿勢は市に多大な「恩恵」をもたらした。08~18年度、再編交付金をはじめ基地に絡む国の補助金・交付金は一般会計分で総額702億8800万円(18年度は当初予算ベース)。18年度は138億6500万円と一般会計の17・3%を占め総額、割合とも過去最高だった。

 基地関連の財源はハード整備だけでなく、市民サービスに行き渡る。中学卒業までの子ども医療費に加え本年度から市立小中学校の給食費も無料に。「本当にありがたい。他の母親も同じ気持ちでは」。2人の娘を持つ市内のパート従業員女性(34)の実感だ。

基地依存 懸念も

 賛否を巡り地域を翻弄(ほんろう)した艦載機移転問題。それを知る市民の中には現市政の「現実的な対応」を支持する声は多い。一方、艦載機移転が現実となった今、その騒音への戸惑いは広がっている。 

 市が基地周辺に設置する測定器は5月、滑走路沖合移設後で月別最多の騒音回数を記録。市には連日、苦情のメールや電話が相次いだ。「爆音の質が明らかに変わった」「ここまでうるさいとは」。市民の訴えにはこんなはずではなかったとの思いがにじむ。

 市議会の一部などには財源の「基地依存」を懸念する声もある。財政運営上の市の自立性や安定性に影響するほか、国から新たな負担を求められても反対できなくなる―との見方だ。これに対し市は「事業を進める上で有利な財源を活用するのは市の責務。基地関連の予算だけに頼っているわけでもない」と主張する。

 京都府立大の川瀬光義教授(地方財政学)は「基地負担の増加と取引するような形で、特別にお金を授受するのは地方自治の本来の在り方としては不正常」と指摘。その上で「再編交付金などの支給は国の判断次第。市民サービスを維持する上で、市はリスク管理を考える必要がある」と警鐘を鳴らす。(松本恭治)

米空母艦載機移転計画
 在日米軍再編の一環で4機種の空母艦載機約60機を厚木基地から岩国基地へ段階的に配備する計画。岩国市や山口県などは昨年7月、国に移転容認を伝えた。国の説明によると、8月に第1陣のE2D早期警戒機5機が到着。11~12月、FA18スーパーホーネット戦闘攻撃機2部隊(24機程度)とEA18Gグラウラー電子戦機部隊(6機程度)、C2輸送機1機が配備された。今年3月末、最後のスーパーホーネット2部隊(24機程度)が移り、全ての移転が完了した。

(2018年8月9日朝刊掲載)

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