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社説・コラム

天風録 『きょう終戦の日』

 歴史に「たられば」はないと言われる。それでも「もしあの時」と考えてしまうことが誰しもあろう。ただ自分の選択なら後悔もできようが、そうでなければどうしようもない▲西村京太郎さんのミステリー「八月十四日夜の殺人」を読んでそう思った。ある年の8月15日朝、ホテルの一室で刺殺体が見つかる。おなじみの十津川警部が捜査を進めるうち10年ごとに同じ日、殺人が起きていると分かる。いずれも日付しか共通点はなく、動機も見当たらない▲ゆきずりに命を奪われたのだとしたら、やりきれないではないか。そんな不条理を西村さんは、終戦前夜に日本各地を無差別に焼いた米軍の空襲と重ね合わせたようだ▲日本がポツダム宣言受け入れを最終決定した14日から翌日にかけて、米軍は10都市以上を標的とし、光と岩国でも千人以上が犠牲になった。もし、この国の決断がもっと早ければ、広島でもあまたの命が救われたはず▲この大量殺りくの「犯人」は、爆撃を命じた米軍の司令官か、ポツダム宣言の受諾を遅らせた旧軍部か、それとも…。最終章に西村さんが付けたタイトルは「戦争その理不尽なるもの」。きょう終戦の日を、肝に銘じる日に。

(2018年8月15日朝刊掲載)

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