×

ニュース

原爆朗読劇「いつまでも」 渡辺美佐子、「初恋の人」に誓う決意 グループ公演は来年で終止符

 今夏も広島市など各地で、俳優グループ「夏の会」(中村たつ代表、11人)による原爆体験記の朗読劇が上演された。前身を含め30年以上続く全国巡演は、メンバーの高齢化のため来年で終止符を打つ。中心メンバーの渡辺美佐子(85)は、被爆死した同級生への思いを胸に「私一人でも朗読は続けたい」と語った。

 夏の会は、1985年から原爆の朗読劇を始めた「地人会」を受け継ぎ、2008年に結成。被爆者の手記や詩などで構成する「夏の雲は忘れない」を、これまで約200回上演してきた。

 渡辺は80年、テレビ番組への出演をきっかけに、東京・麻布の国民学校時代に慕った同級生が広島の爆心地近くで亡くなっていたことを知った。東京大空襲で焼け出され、母方の祖母がいる広島へ移っていた水永龍男さん。以来、広島公演のたびに平和記念公園を訪れ、「初恋の人」の名が刻まれた広島二中(現観音高)の原爆慰霊碑にヒマワリの花を手向ける。

 今年7月の広島公演当日の朝も、雨が降りしきる慰霊碑前で語り掛けた。「あなたは12歳で亡くなったのに、私は85歳になっちゃった。今日は龍男君と同じ中学生と一緒に舞台に立つよ。元気に読んでもらうね」

 朗読劇を始めた当初、広島、長崎公演には多数の被爆者が来場した。「緊張で足が震えた。『観劇がきっかけで被爆体験を語り始めた』と聞いたときはうれしかった」。18人いたメンバーは現在、高齢化で11人に。「原爆で亡くなった子どもの母親ぐらいだったのが、みんなおばあちゃんに。この辺りで幕を下ろそうと決意した」

 一方で「あの戦争の体験を語れるのは、私たちが最後の世代」との使命感を抱き続ける。「原爆で亡くなった一人一人に思いをはせてほしい。赤いほっぺで、きりっとした目をしていた龍男君のことをこれからも伝えたい」(西村文)

(2018年8月18日朝刊掲載)

年別アーカイブ