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社説・コラム

天風録 『昭和天皇の言葉』

 「うむうむ」。77年前の12月7日のこと。いよいよ戦争を始める手順について語る、時の首相東条英機に対し、その人はうなずいていたという。昭和天皇である▲その夜、東条が政府高官に話した内容を記したメモが残っている。天皇の表情を「いったん決めた後は悠々として動揺もない」と見てとった東条は、「既に勝った」とまで語った。果たして天皇の心中はどうだったか▲大日本帝国を率いて臨んだ戦争の記憶は、晩年に至っても頭から離れなかったようだ。その肉声が侍従の日記に記録されていた。85歳だったある日、「細く長く生きても仕方がない」「戦争責任のことをいわれる」などと漏らしている▲戦後、天皇は「現人神(あらひとがみ)」から人間になる。国が復興を遂げた後も、人間として苦悩していたのだろう。74歳の時の記者会見で原爆投下について問われたことなどを気に病んでいる様子も、侍従日記からうかがえる。侍従長に励まされて涙したという▲戦争で数えきれぬほど人が死に、生き残った人も長く苦しんだ。平成の世もあと8カ月余り。昭和は一層遠くなり、大戦の記憶が薄れるかもしれない。戦争の愚かさ、悲しさをしっかりと胸に刻んでおかねば。

(2018年8月24日朝刊掲載)

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