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社説・コラム

社説 日米地位協定 抜本改定 地方の総意だ

 全国知事会が、日米地位協定の抜本的な見直しを日米両政府に提言した。全知事が一致し、在日米軍に特権的な地位を与える協定を改めるよう求めたのは初めてのことだ。両政府は重く受け止めなければならない。

 米軍人・軍属による事件や事故が起きても立ち入り調査ができず、借地である基地の環境汚染も国内法を順守させられない現状を問題視した提言である。安全保障のためとはいえ、住民の暮らしを守る自治体の首長として「治外法権」は放置できないという意思の表れだろう。

 知事会はこの問題で研究会を設け、2年近く議論を続けてきた。他国の地位協定を現地調査し、沖縄の実情も踏まえ、まとめた。地位協定の改定はこれまで、米軍基地や関連施設を抱える15都道府県による渉外知事会が求めていた。基地のない府県も含めて「総意」となり、格段に重みが増したのではないか。

 全会一致でまとまったのは、今月死去した翁長雄志(おなが・たけし)沖縄県知事の功績が大きい。「基地問題は一都道府県の問題ではない。地方自治が問われている」という訴えが研究会の設置につながり、議論もリードしていた。翁長氏が注いだ情熱を、知事会が引き継ぐ番である。

 もう一つ、知事たちの背中を押したのが、輸送機オスプレイの訓練拡大だろう。共同通信社の昨年末の全国知事アンケートによると、2012年に普天間飛行場(沖縄県)に24機が配備されて以降、少なくとも広島や山口など30都道県で飛来が確認された。10月には横田基地(東京都)にも5機が配備される。

 事故を懸念し、自治体がいくら飛行自粛を求めても、地位協定に基づく航空特例法で米軍機には自由な飛行がほぼ認められている。これでは基地の有無にかかわらず、住民の安全を守ることはできまい。

 さらに知事会の提言では、米軍機の低空飛行訓練のルートや時期について速やかに事前に情報提供することを求めた。

 中国地方でも低空飛行訓練が繰り返されている。岩国基地への空母艦載機移転に伴い、騒音被害が増えた地域もある。岩国市、山口県、基地などでつくる岩国日米協議会は「盆の13~16日は飛ばないようにする」と確認しているが、現実には形骸化し、今年は計110回の騒音を測定した。市が毎年要請する飛行自粛は無視されている格好だ。由々しき事態である。

 日米地位協定は、1960年の締結から一度も改定されていない。米軍ヘリ墜落などによる環境汚染や、米軍属の男による女性暴行殺害事件によって改定を求める世論は一時強まったが、補足協定の締結にとどまった。改定に後ろ向きな日米両政府の姿勢は明らかと言えよう。

 同じように米国と地位協定を結んだドイツやイタリアは、改定を実現している。米軍の訓練にも自国法を適用し、基地への立ち入り権限を持つ。それに比べ日本はあまりにも「不平等」で、地位協定が法律より上にあるかのようだ。協定の実施に伴う刑事特別法は米軍施設への侵入を禁じ、基地反対運動の参加者にも適用される現状がある。

 日本政府は、地方の声を背に一刻も早く米国に改定を提起すべきではないか。9月の自民党総裁選でも、中身の濃い論戦を聞かせてもらいたい。

(2018年8月28日朝刊掲載)

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