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社説・コラム

社説 防衛白書 脅威一辺倒でいいのか

 2018年版の防衛白書がまとまった。北朝鮮の核・ミサイルの脅威を前面に打ち出したことが際立つ。巨費を投じて進める防衛力強化の理由を裏付けようとする狙いが透ける。

 この1年間の朝鮮半島情勢を「これまでにない重大かつ差し迫った脅威」と明記した。「新たな段階の脅威」とした昨年版の白書より一段と表現を強め、危機感を強調した形だ。

 6月の米朝首脳会談で、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長がトランプ大統領に「完全な非核化」を文書で約束した意義は大きいと評価した。一方で、その後も「脅威についての基本的な認識に変化はない」とした。

 米朝による非核化交渉は進展が見られず、日本をほぼ射程に収める中距離弾道ミサイルも実戦配備されたままである。ただ北朝鮮は今年に入り、これまで繰り返してきたミサイル発射と核実験を自制している。

 緊張が和らいでいる面は確かにある。その影響にはほとんど言及せずに、ことさら脅威をあおる言い回しには強い違和感を覚える。

 背景には、北朝鮮の「脅威」への備えを急ぐためとして、防衛装備の強化を進める狙いがあるのは間違いなかろう。

 とりわけ山口、秋田両県が配備候補地に挙がっている地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の導入をスムーズに進めたいとの思惑がにじむ。

 米国と約束し、来年度予算に関連費の一部を計上する予定でいる。ところが、当初想定では800億円だった1基当たりの本体取得費は1340億円に高騰し、2基で2680億円になる。30年間の維持費など含めると4664億円まで膨れる。

 これほど巨額な費用を投じることが本当に必要なのか、疑問が拭えない。候補地の住民から「朝鮮半島情勢が変わったのに必要があるのか」と反対意見が出るのも当然だろう。

 安全保障政策の転換に前のめりな安倍晋三首相の下、防衛費は年々増え続けている。来年度予算の概算要求も過去最大の5兆3千億円になる見通しだ。

 年末に見直す防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」を巡り、有識者の議論も始まった。5年間の防衛装備品などを示す「中期防衛力整備計画(中期防)」も決まる。今後も防衛費を増やそうとする中、脅威の評価を変えれば、朝鮮半島情勢を理由にした防衛力強化に水を差しかねないと考えたのだろうか。

 北朝鮮の脅威と並んで、白書では軍備増強を続ける中国についても強い警戒感を表している。東シナ海や南シナ海への進出について、力を背景にした現状変更など高圧的な対応を継続していると指摘した。

 尖閣諸島を含む南西諸島を防衛する備えとして、今年3月に新設した陸上自衛隊の離島防衛専門部隊「水陸機動団」にも言及している。

 だが、防衛費を増やし続けて防衛装備の増強で対抗していくにはおのずと限界がある。安全保障には、冷静に情勢を把握し、柔軟に対応する外交力も欠かせない。

 順調とはいえないものの、米朝の対話局面は続いている。緊張緩和に向けた対話が後戻りしないよう、日本は非軍事的なアプローチで地道に働き掛けを続けていくべきである。

(2018年8月31日朝刊掲載)

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