×

連載・特集

地上イージス 二つの候補地 <1> 山口・むつみ演習場

 北朝鮮の弾道ミサイルに対し日本列島の南北に配置した「盾」で迎え撃つという「イージス・アショア」計画。国から突如、「最適候補地」とされた陸上自衛隊のむつみ演習場(萩市)と新屋演習場(秋田市)の地元は是非を巡り大いに揺れる。いったんは延期された現地調査入札の開札が12日に迫る中、山口、秋田両県の二つの候補地の現状を河北新報と合同で報告する。

反発の陰で 「見返り」分断懸念も

 「この会合はセレモニー。もうむつみ村に決まっとると思う」。8月29日、山口県阿武町であった地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画の住民説明会。約130人が詰め掛けた会場で最後にマイクを握った藤村繁さん(89)はこう切り出し訴えた。「私は基地ができるころに命はないだろうが、子や孫のために反対する」

 国は6月、萩市の陸自むつみ演習場を候補地として公表。人口約3400人の単独町制を貫く同町は進入路の一部が通る隣町だ。演習場の北西に位置し、日本海を挟んで朝鮮半島を望む。有事には町上空を迎撃ミサイルが飛ぶため、住民の反発は強い。3度にわたり開かれた説明会で賛成意見は出なかった。

趣異なる説明会

 一方、演習場が立地する萩市むつみ地区では趣を異にする。8月27日にあった説明会は、地元側の要望で居住者に限定。同じ市内でも地区外の住民の傍聴を認めなかった。「私らを犠牲にして市内に補償を全部持っていかれる」。参加者の一人が広域合併後の地元事情を吐露すると、会場からは拍手が湧いた。

 発言の念頭にあるのは、配備受け入れによる補助金交付など「見返り」への期待だ。開拓地だった演習場は戦後、農業経営の行き詰まりから旧むつみ村が自衛隊を誘致。これまでの説明会でも、国は地元対策で当時整備した道路や集会所を実績として紹介している。

波紋呼ぶ「覚書」

 実は演習場の誘致に際し地元と陸自は「覚書」を交わしている。1961年に旧村長や阿武町長と締結し「自衛隊側は民生を阻害しない」などの確認事項を規定。合併後の2006年に新たに結び直した。「阿武町史」は、同町では誘致への反対が強かったが、覚書の締結により「問題は終結した」と記している。

 半世紀以上を経たいま、この覚書が波紋を呼んでいる。配備に反対の住民側は「ミサイル基地建設は覚書に反する」と指摘。一方、国は「覚書は使用目的を演習場に制限するものではない」と主張し、仮に配備地に決まれば、新たな協定を結ぶ可能性も示唆した。

 「覚書の締結で誘致に反発した阿武町側も納得した経緯がある。それだけ重い文書だ」。計画撤回の署名活動を続ける市民団体代表の森上雅昭さん(66)=萩市=は危機感を募らせる。「国策で住民同士が分断されてはいけない。地元だけでなく県全体で考えるべき問題だから」(和多正憲)

陸上自衛隊むつみ演習場
 萩市むつみ地区の山間にあり、敷地は約198ヘクタール。1960年に開設され、陸自山口駐屯地(山口市)が管理する。戦後、日本最大のカルスト台地・秋吉台(美祢市)にあった日米の演習場の代替地として旧むつみ村(現萩市)が誘致した。

中国新聞・河北新報合同連載

(2018年9月4日朝刊掲載)

年別アーカイブ