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社説・コラム

社説 沖縄知事選と本土 基地負担 わが事として

 翁長雄志(おなが・たけし)氏の死去に伴う沖縄県知事選がきのう告示された。「米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設」の是非を最大の争点に、安倍政権が推す前宜野湾市長の佐喜真淳(さきま・あつし)氏と、翁長氏後継者の自由党前衆院議員玉城(たまき)デニー氏の事実上の一騎打ちとなった。

 地方選挙ではあるが、争点は日本の民主主義や地方分権の在り方にも関わるはずだ。

 先週開かれた公開討論会では佐喜真氏が「普天間返還」を争点に挙げて基地跡地の経済効果を強調する一方で、辺野古移設の是非には言及しなかった。「われわれには努力の限界がある」「宜野湾市民は悩み苦しんできた」との発言も出た。

 一方、玉城氏は争点を「辺野古埋め立て承認撤回の是非」と明言したが、その先の手法については立ち入っていない。「承認撤回は法治国家の自治体が取るべききちんとした手続きだ」とも述べた。立場は違うが、いずれの発言にも外部から持ち込まれて久しい米軍基地という重圧がにじみ出ていよう。

 両氏のきのうの第一声で印象的なくだりがあった。佐喜真氏は「対立や分断からは何も生まれない」と強調し、玉城氏は「イデオロギーよりアイデンティティーを大事にしようという翁長氏の遺志」を掲げた。

 ことしは本土復帰から46年である。にもかかわらず着地点が見えない基地問題に対し、県民は疲労の度を増しているはずだ。「対決」ではなく「総意」によってそれを解決したいという考えが、両氏に共通しているように思えてならない。

 選挙戦は翁長氏が現職の仲井真弘多(なかいま・ひろかず)氏を破った前回の構図とほぼ同じではあるが、現実の沖縄は風雲急を告げている。国が辺野古への移設工事を着々と進めるのに対し、県は埋め立て承認撤回で対抗している。

 保革を超えて翁長氏を推してきた「オール沖縄」に、ほころびが見える点も違う。自主投票に転じた企業グループがあるほか、県内の市長選では翁長氏の流れをくむ候補が相次いで敗れた。だが沖縄の知事選は国政の与野党対決を持ち込むだけで片が付くものではあるまい。

 普天間の固定か、辺野古移設か、二者択一を県民に迫る構図にすべきでもなかろう。

 普天間の土地は、沖縄戦のさなかに米軍が日本本土攻撃に備えて強制的に接収し、今もなお使い続けている。戦時の財産奪取を禁じるハーグ陸戦条約違反の疑いも拭えないはずだ。

 返還時期については1996年に当時の橋本龍太郎首相とモンデール駐日米大使が「5~7年以内」で合意しながら、いまだ履行されていない。隣接する沖縄国際大に米軍ヘリが墜落して市民を恐怖に陥れるなど、危険極まる基地であり、無条件の閉鎖・返還しかあり得ない。

 これに対して、辺野古は国が海面を埋め立てて造成する恒久的な基地である。辺野古は普天間と切り離して、争点として扱われるべきだろう。

 翁長氏は「安全保障は国民が等しく負担すべきである」と主張し続けた。安全保障をどのように捉えるにせよ、沖縄にだけ過重な負担を強いる現実が、本当は問われなければならない。今回の沖縄県知事選は、国民が人ごとでなく考える契機とすべき選挙でもある。

(2018年9月14日朝刊掲載)

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