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「除斥期間」の適否 注目 在外被爆者訴訟 26日判決

広島 高裁初の判断 死後20年で請求権が消滅

 広島市で被爆後、台湾に渡った女性が長年、被爆者援護法の適用外とされたのは違法として、遺族4人が国に計110万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が26日、広島高裁で言い渡される。一審では、提訴時点で死後20年以上が経過し、民法の「除斥期間」で請求権が消滅したとして訴えを退けられた。除斥期間を巡って争われる在外被爆者訴訟の高裁判決は初めてとなる。(小笠原芳)

 被爆者は援護法に基づき、医療費や健康管理手当が国から支給されるが、国は1974年に援護法の対象を国内在住者に限るとの通達を出した。しかし2007年に最高裁で国外在住者を除外した通達の違法性が認められ、国の賠償責任が確定。在外被爆者や遺族が訴訟を起こして裁判所が事実認定をすることを条件に国は賠償に応じ、これまでに約6300人と和解、1人につき110万円を払ってきた。

 しかし国は16年に突然、提訴時点で死後20年以上が経過したケースでは和解に応じない姿勢に転じた。民法が損害賠償請求権について「20年を経過した時は時効によって消滅する」などと定めているためだが、国は死後20年以上の遺族たち約170人と和解してきた経緯があり、他の原告たちから突然の方針転換に矛盾を指摘する声が相次いだ。

 今年2月の広島地裁判決は国の方針を追認。提訴時点で死後21年8カ月の女性の遺族の訴えを「請求権は消滅している」として棄却した。死後20年になる前に提訴することは「客観的に不可能ではなかった」とし、除斥が「著しく正義・公平の理念に反するとまではいえない」と判断した。

 遺族は判決を不服として控訴。高裁での口頭弁論では「(女性が)損害賠償を請求できると知ったのは、最高裁判決が出た後に弁護団が国外で周知活動を始めてから。国が時間の経過だけを理由に責任を免れるのは正義・公平に反する」と主張した。国側は、女性が死亡した1994年以降も同様の訴訟が起こされていたとし、「権利の行使が客観的に不可能だったとはいえない」などと反論した。

 同種の訴訟は広島高裁のほか、大阪高裁や長崎地裁などで計10件が係争中で、原告は計約千人に上る。うち9件は地裁で判決が出され、いずれも原告の請求が棄却されている。

 ただ、除斥期間の適用を巡っては被害者を救済した例もある。集団予防接種でB型肝炎に感染したとして国に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁は2006年、除斥期間の起算点を感染時ではなく、潜伏期間を経た発病時として原告への支払いを国に命じた。今回、原告の訴えは届くのか。高裁の判断が注目される。

除斥期間
 権利が一定期間の経過で消滅するという法律上の考え方。民法は、不法行為の時から20年で損害賠償請求権が消滅するなどと定める。国は、在外被爆者を被爆者援護法の対象外としたことを不法行為と捉え、被爆者が死亡した日から20年を除斥期間としている。

(2018年9月22日朝刊掲載)

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