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連載・特集

[Peaceあすへのバトン] 書道家 河内裕美さん

平和紡ぐ願い 筆に込め

 「hiro」の名前で活動しています。被爆体験を3世や同世代が後世へ伝えるプロジェクトに関わっています。祖父母が被爆した私としても、書を通じ、多くの人が平和について考えてくれるような作品を、生み出していきたいです。

 7月、パリであった日本文化を紹介する祭典「ジャパンエキスポ」に初参加しました。せっかく被爆地から来たのだから、平和をテーマにしようと、思いを高めパフォーマンスへ。フランス語で平和を意味する「paix」の字を力強く布に書いた上に、平仮名の「いのち」を赤く書き重ね、折り鶴のシルエットに仕上げました。作品は広島へ持ち帰り、プロジェクトの展示会でも見てもらいました。

 広島のおりづるタワーに、2年前、初めて取り組んだ作品が展示されています。ちょうど平和記念公園を望める11階。目の前いっぱいに広がる大きな和紙に、羽ばたく三つの折り鶴を書きました。一見すると書に見えないかもしれませんが、実はこの鶴、平和への願いをつづった「アオギリのうた」の歌詞を書き連ねて、形作ったものです。

 高校の同級生で映像作家の女性に誘われプロジェクトに加わったのが、平和と向き合うきっかけになりました。平和が大切だと押しつけるのではなく、考えてもらう機会をつくるというコンセプトに共感。展示会に向け、何を題材にするか頭をひねっていました。被爆体験を伝えるテーマで、幅広い世代に見てもらえないか、考えていた時です。

 ヒントをくれたのは当時3歳の長男でした。保育園で教わった「アオギリのうた」を歌い、鶴も折ってくれ、ひらめきました。没頭して一気に書き上げました。大きな鶴は被爆者本人、他の2羽は被爆2世と3世です。見守り、支え合う構図は体験が継がれる「つながり」を表しています。好評だったので、展示会後は、完成したばかりのおりづるタワーに寄贈しました。

 最初から平和に熱心だったわけではありません。書道は10歳から始め、最初は上手になるのが楽しみで続けました。地元の安西高で書道部に入り、2年の時に「書の甲子園」と言われる国際高校生選抜書展で大賞を受けました。

 書の世界で生きていこうと決め、安田女子大で書道を専攻。卒業後は教室を開きながら、中学、高校の非常勤教員のほか、夜は塾の講師もこなし、多忙を極めました。体もしんどくなり、結婚、妊娠の時にやめましたが、出産後に再開すると、やはり書道を楽しむ自分がいました。

 身近な幸せの積み重ねが世界平和になる―。そう信じています。書道は墨のアート。きれいに字を書くだけが全てではありません。自分にできるのはその書で表現することです。夢も書き続ければ、未来にかなうかもしれないと、期待しています。(文・山本祐司、写真・今田豊)

こうち・ひろみ
 広島市安佐南区出身。安西高、安田女子大卒。03年に「河内書道教室」を安佐南区に開く。アーティストとしての活動も始め、11年に初の個展。商品や看板のロゴなどを制作する傍ら、写真家らとともに「被爆三世 これからの私たちはproject」に加わる。安佐南区在住。

(2018年9月24日朝刊掲載)

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