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社説・コラム

社説 伊方原発の再稼働容認 火山リスクの軽視では

 原発の運転差し止めを巡る司法判断で、正反対の決定が下された。判断の根拠がまちまちだと、原発に対する国民の不安を募らせるだけではないか。

 広島高裁がきのう、昨年12月に同高裁が命じた四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めの仮処分決定について、不服とする四国電力の異議を認める決定を下した。事実上、再稼働を容認した。

 差し止めの根拠とされた火山の噴火リスクをどう判断するか、どんな基準で運転の可否を判断すべきかが争点になった。

 運転差し止めを認めた昨年12月の決定は、大規模噴火に対する四国電力の想定が甘く、原子力規制委員会の審査も不十分だと断じた。約130キロ離れた熊本県の阿蘇カルデラで破局的な噴火が起きた場合、火砕流が原発に到達する恐れがあり、立地自体を「不適」とした。

 周辺の住民たちが抱く、万が一の懸念を踏まえての判断だったのだろう。

 ところが今回の決定は、阿蘇カルデラのリスクについて「大規模な破局的な噴火が起きる可能性が相応の根拠を持って示されておらず、原発に火砕流が到達する可能性は小さい」とし、昨年12月の決定を真っ向から否定した。

 国が破局的な噴火の具体的な対策を定めておらず、国民の多くも問題にしていないと指摘し、「伊方原発の安全性は欠けていないというのが社会通念だ」との判断を示した。「噴火による具体的な危険性はない」とする四国電力の主張を全面的に追認した形である。

 国に対策がないからといって、火山噴火のリスクを国民が受け入れているとするのは本末転倒である。科学的な「相応の根拠」も示さず「社会通念」で片付けてしまうのは、あまりにも原発のリスクを軽視しているのではないか。地元はもとより海を隔てた広島、山口、大分県などの住民の不安は置き去りにされはしないだろうか。

 破局的な巨大噴火の発生は1万年に1回とされる。発生すれば、広範囲に甚大な被害をもたらすのは確実で、原発の危険性だけを問題視することに意味はないとの指摘もあろう。

 ただ発生頻度が少ないからといって、対策を怠っていれば、甚大な被害を受けかねない。東京電力福島第1原発の事故から得た教訓を肝に銘じなければならない。わずかなリスクにも、しっかりと安全対策を講じるのは当然のことである。

 今回の決定を受け、四国電力は10月中にも再稼働させる方針を明らかにした。だが、運転差し止めを求める仮処分は高松高裁や山口地裁岩国支部、大分地裁でも係争中である。いずれかの裁判で差し止めが命じられれば、再稼働はできなくなる。

 伊方原発は「日本一細長い」とされる佐田岬半島の付け根にある。沖合には国内最大級の中央構造線断層帯が走り、南海トラフ巨大地震の想定震源域にも入っている。

 四国電力が算出した地震想定は十分なのか。事故時に半島で暮らす住民が安全に避難できるのか。火山のリスクに加え、各地の裁判では、さまざまな不安が訴えられている。一つ一つの不安と正面から向き合い、説明を尽くしていく姿勢が、四国電力には求められる。

(2018年9月26日朝刊掲載)

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