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在外被爆者 二審も敗訴 死後20年 請求権消滅 広島高裁

 広島市で被爆後、台湾に渡った女性が長年、被爆者援護法の適用外とされたのは違法として、遺族4人が国に計110万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が26日、広島高裁であった。生野考司裁判長は、提訴時点で死後20年が経過し、民法の「除斥期間」で請求権が消滅していたとして訴えを退けた一審広島地裁判決を支持。遺族側の控訴を棄却した。除斥期間を巡って争われる在外被爆者訴訟の高裁判決は初めて。(小笠原芳)

 在外被爆者については最高裁が2007年、医療費などを受けられる援護法の対象から除外した国の通達を違法と判断し、国の賠償責任が確定。女性は1994年に亡くなっていたが、21年8カ月後の2015年9月に遺族が提訴した。

 控訴審判決で生野裁判長は、「提訴時に死後20年以上が経過し請求権が消滅している」と国の主張を認めた一審判決を支持。「日本に居住していないことを考慮しても、請求権の行使が客観的に不可能だったとは認められず、著しく正義・公平の理念に反するというべき特段の事情は認められない」との判断を示した。

 07年の最高裁判決を受けて国は、在外被爆者や遺族が訴訟を起こして裁判所が事実認定をすることを条件に賠償に応じ、これまでに約6300人と和解した。除斥期間を経過した約170人も含まれていたが、16年9月以降は除斥期間を過ぎたケースは和解に応じない方針に転換。大阪高裁や長崎地裁などで計10件が係争中で、原告は約千人に上る。うち9件は地裁レベルで判決が出され、いずれも原告の請求が棄却された。

 この日の判決後に広島市中区であった記者会見で、女性の遺族の弁護士は「地裁判決を引き継いだ不当な判決」と反発。最高裁への上告を検討するとした。厚生労働省被爆者援護対策室は「主張が認められたと考えている」としている。

不平等感残る

 田村和之・広島大名誉教授(行政法)の話
 一審判決を追認した非常に不平等感の残る判決。機械的に法律を適用する裁判所の姿勢をあらためて示した。問題の根底には、在外被爆者を被爆者援護法の適用外として救済してこなかった国の不法行為がある。にもかかわらず、国は和解の動きが進む中で突然、「除斥期間」を持ち出した。除斥期間に気付かなかった被爆者が悪いかのような態度だが、除斥期間の周知を国外にしておらず、権利の消滅には国にも責任がある。理不尽と言うほかない。

除斥期間
 権利が一定期間の経過で消滅するという法律上の考え方。民法は、不法行為の時から20年で損害賠償請求権が消滅するなどと定める。国は、在外被爆者を被爆者援護法の対象外としたことを不法行為と捉え、被爆者が死亡した日から20年を除斥期間としている。

【解説】原告側の事情を一蹴

 在外被爆者の遺族の請求を退けた26日の広島高裁判決は民法の除斥期間を適用して訴えを退けた。台湾に暮らした原告側の事情が十分にくみ取られたとは言えず、一審に続き「時の壁」に阻まれる形となった。

 在外被爆者を被爆者援護法の対象外とした国の通達を最高裁が違法と判断した2007年以降、国は提訴した在外被爆者や遺族と和解を進め、賠償金を払ってきた。しかし16年に突然、提訴時点で死後20年以上が経過したケースでは「除斥期間」を理由に和解に応じない姿勢に転換。それまでに同じ条件で賠償に応じていた約170人との間に不平等な状況も生んだ。

 女性の遺族は裁判の中で不平等感に加え「損害賠償できると知ったのは最高裁判決が出てから」などと事情を説明した。最高裁判例では「著しく正義、公平の理念に反する場合は除斥期間の適用を制限できる」とされるが、高裁はこの日の判決で「一切の事情を考慮しても請求権の行使が客観的に不可能だったとはいえない」と一蹴した。

 同じ被爆者でありながら援護策の枠外に置かれ続けた在外被爆者。高裁はどこまで、「不法行為」を長年放置した国の責任に向き合い、救済の道を探ったのか。高裁レベルで初めての判決は、司法の限界を感じさせる。(小笠原芳)

(2018年9月27日朝刊掲載)

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