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社説・コラム

中距離核条約 米の破棄意向 広島市立大広島平和研究所 水本和実副所長に聞く

強硬なら核軍縮後退

 トランプ米大統領が中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄を表明した問題で、ロシアのプーチン大統領に意向を伝えたことを受けて、両国の関係悪化や核開発競争の激化が懸念されている。核軍縮問題に詳しい広島市立大広島平和研究所の水本和実副所長(61)に、条約を巡る議論の今後の見通しを聞いた。(明知隼二)

  ―米国の条約破棄の動きをどう見ますか。
 既にロシア側に意向を伝えており、破棄の本気度は高そうだ。ただ、米国では11月に中間選挙がある。ロシア疑惑を抱えるトランプ氏にとって、ロシアに強硬な姿勢を示すことは、国内保守派へのアピールでもある。トランプ氏は前言を翻すことも多く、今後の動きは予測しにくい。

  ―交渉の行方は。
 ロシアはこれまで、条約違反を一貫して否定してきた。米側が何らかの証拠を基に条約の順守を求めるのであればいいが、強硬に破棄を求めるだけなら、両国関係はさらに悪化し、核軍縮も後退する恐れがある。

  ―1987年に調印された条約は、どういう意味を持つのでしょうか。
 米国と旧ソ連が、特定の核兵器の全廃を初めて決めた画期的な条約だった。冷戦下の激しい核開発競争の結果、核兵器はもはや使うことができない兵器になった。だからやめよう。それが、条約に込められた教訓だ。破棄は、その教訓を捨て去るということだ。

  ―今後の望ましい議論の方向性をどう考えますか。
 米国は核超大国であり、核兵器の危険性を減じる責任がある。中国の核開発を懸念するなら、中国などを加えて多国間条約へと発展させる方向性もあり得る。その議論ができないのであれば、やはり核兵器禁止条約によるトータルな禁止しかないのではないか。

  ―日本政府は、米国に離脱をしないよう求めるべきではないでしょうか。
 政府は「米ロの動きを注視する」と言うが、間に入って歩み寄りを促すのが被爆国の役割だ。米国が核軍縮に背を向けるのを黙って見過ごせば、「核の傘」に頼る姿勢もまた、国際社会から改めて問われる。市民も政府の曖昧な態度を容認すべきではないだろう。

(2018年10月25日朝刊掲載)

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