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社説・コラム

天風録 『工場萌え』

 すっかり定着したといえるだろう。ことし改訂された広辞苑にも掲載された。「萌(も)え」という俗語のことである。人や物に特別な興味や愛着を持つこととある▲「工場萌え」という言葉も登場して久しい。工場を訪ねて、迷路のような配管や林立する煙突などをめでるのだそうだ。幻想的な夜景も魅力となる。周南や大竹などのコンビナートを巡る観賞ツアーも盛況というから、ちょっとしたブームといえる▲そんな人気にあやかりたかったのだろう。東京電力が、ツイッターに「#工場萌え」というハッシュタグを付けて福島第1原発の内部写真を投稿し、物議を醸した。写っていたのは震災後に水素爆発を起こした4号機の核燃料プール付近だった▲「事故当事者としての反省がない」「被害者をばかにするな」などと批判が殺到したのも無理はあるまい。東電は「たくさんの人に興味を持ってもらいたかった」と釈明するが心をときめかせる人がどれほどいるのか▲写真本「工場萌え」を出したライターの大山顕さんは「現場で感じる工場の音や匂い、振動も楽しみの一つ」と極意を説く。じかに訪ねられない原発では、もともと「萌える」ことなどできっこない。

(2018年10月31日朝刊掲載)

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