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井戸封鎖 「調査お断り」 地上イージス計画反対の阿武町民 自治会決定 既成事実化を警戒

 地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の県内配備計画で候補地に隣接する阿武町の一部住民が現地調査に強く反発している。防衛省は8日、町内でボーリングによる地下水への影響を調べ始めたが、住民側は民家の井戸を「私有地」として立ち入らせない方針。花田憲彦町長も仲介役を拒んでおり、難航は必至な状況だ。(和多正憲)

 「周防大島町の断水で井戸の大切さを実感した。それでも調査はお断り」。阿武町宇生賀(うぶか)地区で農業を営む原スミ子さん(75)は自宅の古井戸を見やり言い切る。地元の宇生賀中央自治会(53世帯)は10月中旬、国が現地調査の一環とする地下水の調査拒否を全会一致で決定。原さん宅も井戸ぶたを固く閉ざしている。

水質の変化確認

 国は10月29日、地上イージスの配備先決定に向け、候補地の陸上自衛隊むつみ演習場(萩市)周辺での現地調査を開始。演習場でのボーリング前後で、地下水や湧き水の水質などを確認し、影響を把握したい考えだ。

 町でも8日から公共の簡易水道で採水が始まる一方、民家の井戸の調査対象は未定のまま。拒否を掲げる宇生賀地区は演習場すぐそばに広がる田園地帯。農家にとって水源への影響は重大な関心事だが、それ以上に調査受け入れによる配備計画の「既成事実化」を懸念する声の方が強い。

 地元自治会の苦渋の決断について、吉岡勝会長(65)は「配備ありきで不十分な調査。計画自体に反対なので協力しない。全世帯を回り、調査員を私有地に入れないようにお願いした」という。10月末には自宅を訪れた同省職員にボイコットの意思を言い渡した。

 国はこれまで「地元市町の協力を得て近隣住民に井戸の調査を依頼する」と説明。調査開始前には中国四国防衛局の赤瀬正洋局長が藤道健二市長や花田町長を訪ね、調査への理解と協力を求めた。

仲介役拒む町長

 これに対し、計画に反対する花田町長は報道陣に「義務的協力はするが、積極的支援はしない」と述べ、国と住民の橋渡しをする考えがないことを表明。硬化する町民への対応は「国がすべきものだ」と突き放す。

 一方、一連の地下水の調査は仮にボーリングで水質や水量に変化が生じた場合の担保にもなる。そのため農業用水を扱う住民にとってボイコット戦術は、捨て身の意思表示とも言える。

 国は年内にボーリング着手を予定する。中国四国防衛局は「民家には勝手に入れないため、調査が必要な理由を丁寧に説明し理解を得たい」としている。

(2018年11月12日朝刊掲載)

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