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社説・コラム

社説 核軍縮で日米対立 橋渡し役 破綻は明白だ

 国連総会第1委員会(軍縮)で、日本の核廃絶決議案が25年連続で採択された。ことしは賛成が昨年より16増えて160カ国・地域になったものの、オーストリアなど核兵器禁止条約を推進する国々は次々と棄権した。保有国でも米国が棄権に回り、賛成は英国だけだった。

 非保有国の支持が得られず、保有国にもそっぽを向かれた。核廃絶に向けた日本政府の中途半端な姿勢が浮き彫りになったかのようだ。これでは保有国と非保有国の「橋渡し役」には程遠い。そうした考え方の破綻が明らかになったと言えよう。

 日本の迷走は、トランプ米大統領が就任した昨年から特に目立つ。それまで賛成する国はほぼ毎年増えていたが、昨年は前年より23も減った。

 核兵器禁止条約の採択に直接触れなかったため、廃絶への本気度が疑われ、非保有国の一部が賛成から棄権に転じた。核兵器の非人道性や核軍縮の表現を弱めたことで、保有国の米英仏3カ国は賛成していた。

 双方の意向をうかがい、日本政府が右往左往しているようにすら見える。「唯一の戦争被爆国」として廃絶の先頭に立つべきなのに、情けないとしか言いようがない。

 ことしは、賛成国が昨年大幅に減ったことに危機感があったに違いない。核兵器禁止条約には引き続き触れなかったが、核保有国の軍縮義務を記した核拡散防止条約(NPT)の第6条や、NPT再検討会議の過去の合意内容を盛り込み、保有国には一段厳しい内容にした。

 ところが、これに米国が強い拒否反応を示していたことが、おととい明らかになった。

 「NPTは核不拡散の条約だ。なぜ核軍縮に焦点を当てるのか」と異議を唱えた。保有国を含む全加盟国が核廃絶を約束した過去の合意を「時代遅れだ」とも指摘し、原案修正を求めたという。「使える核兵器」を目指すトランプ政権の核戦略をなぞった言い分である。

 NPTが「核不拡散の条約」という主張は、一面的な見方と言わざるを得ない。米英仏ロ中の5カ国にだけ核兵器の保有を認め、他国に拡散させないための条約なら、190を超す国・地域が加盟するはずがない。保有国に核軍縮が義務付けられ、最終的に核廃絶を描くからこそ、NPTが機能していることを忘れてもらっては困る。

 トランプ氏は先月、旧ソ連と結んだ中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱する方針を表明した。今週の中間選挙でこれまでの政権運営に一定の支持を得たことで自信を深め、さらに強硬な核戦略を押し出してくる可能性もあろう。

 米国の「核の傘」に安全保障を委ねる日本政府は、段階的な核軍縮を「現実的なアプローチ」として支持している。しかしむしろ軍拡の懸念が広がっているのが現状ではないか。

 核兵器禁止条約は、核保有国任せでは軍縮は進まないと見切った一部の非保有国が精力的に動き、国連での採択にこぎ着けた。いわば核を持たない国々がリードする核軍縮である。

 核兵器の非人道性を知る国として、どちらの側に立つべきかは明らかだ。新しい潮流を歓迎し、核軍縮を進めるよう保有国を粘り強く説得してこそ、被爆国の決議案にふさわしい。

(2018年11月10日朝刊掲載)

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