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遺品 無言の証人

米国から戻った人形

思いやる心の交流 絵本に

 広島で拾われ、米国から戻った人形=2008年、ウィリアム・ミーダーズさんが原爆資料館に寄贈(撮影・高橋洋史)

 原爆投下後の広島で米兵が拾ったことしか分からない。あの日まで、どこで、どんな子どもが大切にしていたのだろう。原爆資料館収蔵庫にある布製の人形は17センチほどの大きさ。丸い大きな目にピンクのほっぺをして、赤い着物をまとう。

 この人形をテーマにした絵本が2011年に出版されている。児童文学作家の指田和さん(51)=埼玉県鴻巣市=の「海をわたったヒロシマの人形」である。

 指田さんは、この人形を大切にしてきた女性を米国に訪ねている。寄贈者の母でテキサス州のナンシー・ミーダーズさん。終戦後に占領軍の一員として広島に来た友人の米兵からもらった。自分の子どもたちにも人形を見せながら、原爆の話を聞かせたという。

 ナンシーさんも兄を戦争中に亡くしている。「持ち主の少女は生き延びることができたのか。炎の中、親を捜したのか」。原爆の悲劇を自分の痛みのように感じていた姿に指田さんは心を打たれた。「敵味方ではなく、相手を思いやる気持ちに共感した」。人形を巡るナンシーさんや家族との交流を絵本につづった。

 2万点を超す資料館の収蔵資料の中でも、絵本になったものは数えるほどしかない。(増田咲子)

(2018年11月13日朝刊掲載)

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